若き参謀長の憂鬱

番外編:案山子王子の失態


最近、ケントの周りでよく目にする顔がある。


「最近?…彼が私の下に就いて、もう随分と経ちますが。」


さりげなくそのことを問えば、返ってきたのは心底呆れたような表情。

一瞬理解が追い付かず、「…え?」とようやく声を漏らした頃には、ケントの意識はすでにその手元の書類へと向けられていた。


「本当に?」

「嘘を言ってどうするんですか。」

「いや、だが…」


国に戻ってきて以来、自分はほとんどここ、ケントの執務室に入り浸っていたはずだ。

だというのに、彼の部下に見覚えがない?


必死に記憶を掘り起こしたところで、まるで魔法使いに惑わされたかのような気分になってしまった。


そんな私の困惑を察したのか、ケントは書類に視線を落としたまま溜め息を吐く。


「恋に夢中なのも結構ですがね、もう少し周りを見たらどうです?」


しっかりして下さいよ、『次期国王』。


少しの揶揄を含んだ物言いはケントらしく、らしすぎて、その言葉は私の胸に重く突き刺さった。


「それで、先日話してあった件ですが―…」


ケントの声が、遠退く。







その目に宿るものが、自分に向けられるものが、父や周りの者達の言うような忠誠ではないと、初めにそう気付いたのはいつだっただろう。


勘違いだと笑われるのなら、それでも良かった。

私の自惚れだと言うのなら、それも甘んじて受け入れようと思っていた。


だから、



『ソフィー様、ですか…』



国に戻って、最初に彼女の話をした時。

普段冷静沈着なケントの瞳が微かに揺れるのを見て、ほんの少しだけ肩の荷が下りたような気がした。


そして、ケントも。


「…すみません、ケント様。少しよろしいでしょうか?」


不意にノックの音がして、顔を覗かせたのは件の男だった。

私と目が合い、慌てて居住まいを正すその姿はやはり見慣れない。


思わず眉を顰めた私に気付くことなく、二つ返事を返したケントが腰を上げる。


「申し訳ありません、少々席を外させていただきます。」

「あ、あぁ…」


こちらに一礼し、扉に向かうケント。

その姿を見送りながら先程の言葉を思い出す。



『恋に夢中なのも結構ですがね、』



忠臣としての苦言、それ以上でもそれ以下でもない。

そこに以前のような感情を見出だすことが出来ず、ズキッと胸が痛んだ。





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叫びだしそうになる衝動。

(それは私のものだ、と)
(その資格も、ないくせに)


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嘘つき、ロンリー。