紅い飛行艇乗りの物語

いつかのはなし


空に浮かぶ城の話、知ってるか?










親しい友人だけのプライベートな場。
酒も、かなり入っていた。

だから気分が良くなって、口も滑りやすくなっていたのかもしれない。


そうでなければそんな話、誰かにするつもりなんてなかった。


「空に浮かんだ?」

「あぁ、昔流行ったお伽話だな。」


ジーナの反応はいまいちだったが、マルコは流石に元軍人ということもあり、そう答えると懐かしそうに笑った。

それに満足し、つられて俺も笑う。


「なぁに?二人だけで分かり合っちゃって。私にも聞かせて。」

「別に大したもんじゃねぇよ。たわいない噂話さ。」


一時期軍部が弱体化していた頃、その原因として唱えられた『天空の城』。

軍はその財宝に目が眩み、多くの人員を割いたが結局誰も帰っては来なかった―…


それは本来国を守るはずの軍が、己の利益の為に奔走していた当時を揶揄したものだった。


「でも俺ァその話を信じたよ。」

「貴方が?」

「あぁ。なんせ、俺にその話をしてくれたのはあのじい様だったからな。」

「お前のじいさんというと…あの『英雄ケント』か?」

「な?意外だろう?」


その昔、軍の再建に最も尽力したとされる祖父は、軍人としてしか生きられないような人間だった。

そんな彼が、だ。


その話を嫌悪はすれど、幼い孫に物語として話して聞かせるなど到底考えられない。



『……まぁ、そんなもの、実在しないんだがな。』



だからこそ俺は事実だと信じた。

今でも信じている。


そして同時に、それを見てみたいと、そう思った。


「それが、俺が飛行艇乗りを目指した理由さ。」


するすると滑り落ちた言葉を締め括り、また酒を呷っては喉を湿らせる。

ふぅっと息を吐くと、不意にジーナと目が合った。


「ふふっ、素敵な話じゃない。」

「………」


柔らかく微笑まれ、ふと我に返る。

そのままマルコへ視線を移せば、マルコもまた笑っていた。


まるで幼い子供を見守るかのように、それは生暖かい。


「…らしくなかったな。悪い、忘れてくれ。」


急に居心地が悪くなり、逃げるように腰を上げれば、二人の視線も後を追ってきた。


「ごちそうさん。邪魔して悪かったな、お二人さん。」

「いいのよ。いつもマルコとばかりじゃ、飽きちゃうもの。」

「だそうだ。もっと顔を出しやがれ。」


苦笑し、ひらひらと手を振りながら扉へ足を向ける。

そしてノブに触れた瞬間、背中に掛けられる声。


「おい、あまりフェラーリンに心配掛けるなよ。」

「…考えとく。」


そういうお前もジーナを心配させんな。

そう言い残して、俺は扉を閉めた。





---------------
天空の城は未だ見つからない。

*前次#

戻る

嘘つき、ロンリー。