神々の集う湯屋の物語
一名様ご案内
出迎えるのもお仕事です
「ケント様ぁ」
甘い甘い女の声にふと足を止めた。
先程から聞こえる、きゃあきゃあと甲高い女達の声。
てっきり上客の接待でもしているのかと思っていたが。
「んな一遍に言われてもよォ…」
足早に声のする方へ向えば、予想通りの姿があった。
我先にと蠢く女衆と、それに囲まれた、頭一つ飛び出た黒い浴衣の男が一人。
「……ケント。」
それほど大きな声を出したつもりはなかったが、その声は妙に通ってしまった。
姦しさが一瞬、嘘のように静まり返る。
「よォ、ハク。」
「何をしている。戻ったのなら早く顔を出せ。」
「あァ?」
後退しながら慌てて頭を下げる女衆を横目に、ケントの下へ近寄って行く。
「今、行こうと思ってた」などと反省の色のない返事に、思わず眉を顰めた。
だが咄嗟に責める言葉が浮かばない。
「…湯婆婆が、待ってる。」
せめて声色だけでもと強張らせてみたものの、どうも拗ねているようにしか聞こえなかった。
その証拠に、ケントも楽しげに目を細めて笑っている。
「……行くぞ。」
返事も待たずに歩き出せば、それに続こうとしたケントが立ち止まり、女衆を見渡す。
「よォ誰か、按摩に後で俺の部屋来るよう言っとけ。」
「ケント。」
「こっちは長旅で疲れてんだ。そう急かすんじゃねぇよ。」
そうしてようやく立ち去る二人の後ろ姿を見送って、誰かが小さく息を吐いた。
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特に他意はございません
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嘘つき、ロンリー。