神々の集う湯屋の物語

第一話


するりと入り込んできた『何か』。








「悪ィ…ちぃっと厠に行ってくらァ。」


そう言って宴の席を抜け出したケントは、迷いなく厠とは反対方向へと足を進めた。


(さぁて…悪いもんじゃあなさそうだが…)


面倒臭ぇなァ、と内心悪態づきながらも無意識に緩む口元。

すると、ほぼ同時にどこからか「げっ」と声が上がる。


「あァ?」


視線を滑らせれば、顔馴染みの下働きの娘が一人。

心底嫌そうに、見るのも不快だと言わんばかりに忌ま忌ましげな表情を浮かべている。


ケントはその顔をますます愉しげに歪ませた。


「ご挨拶だなァ、リン?」

「…こんなところに居やがったのかよ…」

「あァ?何だってェ?」


舌打ち。

だがいつもならここで踵を返すリンが、少し迷うようにしながらもその場に留まっていることに興味を覚えた。


「…さっき、釜爺んとこに客が来てたぜ。」

「客だァ?」

「でもお前いねぇし、仕方ねぇから釜爺に『湯婆婆んとこ連れてけ』って言われたんだけどよぉ…」


そっぽを向いたリンの周囲に、その『客』の姿はない。

すでに連れて行った後か、はぐれた後か。


大して考えを巡らせることもなく、ケントは続けて問い掛けた。


「どんな客だった?」

「……騒いでんの、気付かなかったか?人間のガキだ。こんぐれぇの小さなナリで…あぁ、それから」


身振りを付けて説明していたリンが、ふと何かを思い出したように顔を上げる。


「ハクから『お前に会え』って言われたってよ。」


その言葉を聞いた瞬間、ケントはとうとう堪え切れず吹き出した。


それからしばらくの間、げらげらと高笑いが油屋中に響き渡るのだった。




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ざわりと変わり始めた『何か』。

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嘘つき、ロンリー。