河神様とある人柱の話

余話


「何をしている。」


不意に腕を後ろに引かれ、我に返った。

そして振り向けば、顔馴染みの少年が眉を顰めて立っている。


「…川に近寄るなと、私にそう言ったのはそなたであろう。」

「え?…あぁ…」


そう言えば、と思い起こすのは少年と出会った日。

荒れる水面を一心に見つめ、今にも川に引き込まれそうな少年の背中に声を掛けたのが始まりだった。


その時とはすっかり立ち位置の変わってしまった現状に、思わず笑いがこぼれてしまう。


「まいったなぁ…」


ぽつりと呟いた言葉はどうやら少年には届かなかったらしい。

訝しげにこちらを窺う少年に、ごまかすように笑いかけた。


「なぁ、坊主。お前、家は?家族はいるのかい?」


「なぜ」と問い返す少年はいかにも利発そうで、それでいてどこか幼い。


村では見ない顔だ。

だがいつもこうして顔を合わせるのだから、近くの、もしかしたら隣村の子どもかもしれない。


そして少年はいつも一人だった。


「一緒に、どこか遠くへ行かないか?」


一瞬息を飲み、目を見開いた少年がまた「なぜ」と問い返す。

震えたように聞こえた声は気付かないふりをした。


「妹を連れて、村を出ようかと思ってな…坊主さえ良ければ一緒に行こう。」


なぜ。

繰り返される問いがきっと少年の「答え」だったのだろう。


俺は肩を竦めて苦笑した。


「…いや、いい。今のは忘れておくれ。」








雨季でもないのに、日に日に増していく水嵩。

何ぞ河の神の怒りに触れたかと、恐れをなした村人の年寄りがどこぞの偉い僧侶を呼んだ。


僧侶曰く。

『社を建て、日々供物を捧げよ。それで鎮まらぬのならば、』






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“どぼん”


(兄を呼び叫ぶ幼い妹の泣き声)
(水面が、静かに揺れた)

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嘘つき、ロンリー。