嵜島とチンピラ02(キッポ)
「ただいま戻りましたぁ。」
言いながら事務所に入るのとほぼ同時に、応接室のドアが開いて「おう、玄兎」と中から兄貴分が顔を出した。
それに対して改めて頭を下げる。
「戻ってきたところではァ悪いんじゃが、お客さんのお帰りじゃ。送っちゃりぃや。」
「はぁ…えぇですけど。」
客、という割にその口調は随分と砕けたものだ。
ならば自分もそこまで気を遣う必要のない相手なのだろう、と二つ返事で応え―…
「お久し振りです、玄兎さん。」
兄貴分に続いて、部屋の中から出てきたその姿に一瞬、思考が止まってしまった。
「何じゃあ?お前ら、はァ知り合いなんかァ?そんなら別に紹介はいらんのォ。」
「、や、その」
「じゃったらホレ、これで仲良う飯でも食ぅてこいや。玄兎も、今日はもうそのまんま帰ってえぇどォ。」
我に返った時には無理矢理金を握らされた後で、「お疲れさん」と事務所を追い出されてしまった。
しかし、言い付け通りに駐車場に向かう間も、隣を歩く男の存在に戸惑いは消えない。
嵜島 昇喜郎。
随分前に、諸事情で三日間程その面倒を見たことがあるが、果たしてこれは本当に本人なのだろうか。
少なくとも自分の知る限り、じろじろと不躾に様子を窺うこちらの視線に対して、苦笑を浮かべるような男ではなかったはずだが。
「その節は色々すんませんでした。」
さほど変わらぬ外見に、全くの別人とも思える雰囲気。
しばらく顔を見ない間に色々あったのだろうが、何とも調子が狂ってしまって仕方がなかった。
「…ワシより先に、謝る相手がおるじゃろうが。」
辛うじて絞り出した言葉は、確か嵜島は俺の家で過ごした後、「飼い主」の下へと戻ったその日の内に姿を眩ました、という話を聞いたことを思い出したからだ。
とはいえ、その「飼い主」もすでに結婚し、店も辞めてしまっているが。
相手はその時一緒に小旅行に出掛けた、どこぞのサラリーマンだったらしいが。
「ワシみとうな男とはもう関わらん方がいいんすよ。」
「ガキの癖に何かっこつけよんならァ…大体、はァうちの事務所に何の用じゃ?」
「森本さんの使いで。」
「もりもとさん?…まさか、森本組の?」
「昔から色々と世話になっとるんすよ。」
「…………」
再び、思考が止まる。
そして溜め息を吐いた。
「…飯、どぉする?」
「いいんすか?」
「兄貴から金預かっとるし、行かんわけにもいかんけぇのォ…」
「じゃあ久し振りに玄兎さんの家に行きたいっすね。」
「あぁ?」
「コンビニ寄って、適当に弁当とか酒とか買って帰りましょーよ。」
「…………」
にこにこと愛想笑いを浮かべる嵜島にはやはり違和感しかなかったが、この時の俺はすっかり色んなことが面倒臭くなってしまっていた。
だからろくに考えることもせず、その提案にただ頷いたのだった。
鈍重の縄
(それは、一つの罠。)
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こっそり悪男祭より。
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嘘つき、ロンリー。