犬を、拾った。
手当てをした。
名前、玄兎。
性別、男性。
年齢、推定二十代前半。
血液型、不明。
身長、体重共に未測定。
出身地、
「……知らねぇよ。物心ついた頃にはもう、あちこち転々としてたし。少なくともこの街の生まれじゃねぇことだけは確かだ。」
未だ体調が万全ではないせいか、ひどく鬱陶しそうに顔を歪めてそう吐き捨てる男。
だが、煩わしいのはこちらも同じだ。
先日拾った重傷患者のカルテを作成していたものの、ほとんど意味を成さないそれは恐らく、チャド警部に渡したところでただの紙屑にしかならないだろう。
溜め息一つ吐き出して、質問を続けた。
「じゃあ、ここに来る前はどこに居たんだ?」
「トシマ。」
「聞いたことないな。」
「俺だって、エルガストルムなんて聞いたことねぇよ。というか本当どこだよ、ここ。」
互いに聞き覚えのない地名は、それだけ互いに遠方にあるということに他ならない。
ならば何故、この玄兎という男は今ここにいるのか。
男の話や拾った時の状況、怪我の具合などから推測するところ、
(…まぁ、よくある話だな。)
何にしろ、そこから先は医者の領分ではない。
後は本職か、便利屋辺りに任せればいいだろう。
そう最後の必要事項を書き終え、顔を上げると、患者が傷のある脇腹を撫でる姿に気が付いた。
「そろそろ包帯を換えるか。ニナ、」
そして看護師を呼ぼうと腰を上げかけた瞬間、グッと白衣を掴まれて動きを止める。
「…何だ?」
「あ、いや…」
「…………」
「えっと…あー…その…」
自分の生まれが分からないと、つい先程何の躊躇いもなく言い捨てた男が言い澱む。
未だ短時間の付き合いながらその理由に思い当たり、もう一度溜め息を吐くのだった。
犬の、手当てをした。
(特記事項、女性に対して過敏な反応有り。)
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嘘つき、ロンリー。