犬を、拾った。

餌を与えた。


施術後の経過は概ね良好。

むしろ良すぎるほどの回復力に、男がタグ付きでないことが不思議だった。


隣に佇むチャド警部は未だにその出自を疑っているようだが。


「本当に違うのか?」

「…所持品は最初に確認した。身体も一通り調べてみたが、それらしい特徴もない。そもそも『タグ付き』の意味も知らないようだ。」


あくまで本人の自己申告だが、と続ければ苦虫を噛み潰したように警部は顔を歪めた。

それを横目に煙草を銜えて火を着ける。


思い出すのは、スプーン片手にこちらを見上げた男の間抜け面。



『タグ…ってアレか?傭兵とかが身に付ける?それとも、』



「それで、お前が飯を例の患者に運んだ時に襲撃を受けたって訳か。看護師は?」

「遣いに出している。さっき便利屋に連絡を入れたから、今頃回収されているだろうな。」

「そうか。タイミングが良かったな。」


確かに、彼女が巻き込まれなかったことは不幸中の幸いだろう。

破れたカーテンに穴の空いた壁、引っくり返ったベッドと周囲を見渡せば酷い有り様だ。

警部が足元に散らばった食器を一つ蹴飛ばした。


「しっかし、ここだけ嵐が通り過ぎたみてぇだな…奴さん、よっぽど恨みを買ってたと見える。その線から調べれば、」

「いや、相手は前からうちにちょっかい掛けてきた組の連中だ。」

「あぁ?」

「調べてくれればすぐに分かる。」


さらに付け加えるなら暴れていたのは患者の方なのだが、つい先程別室のベッドで痛みに唸るその姿を見たばかりの警部は恐らく言っても信じないだろう。

自分でも一瞬、誤ってアッパーを渡してしまったかと錯覚したぐらいだ。

だがこぼれたスープに溶けかけた幾つかの錠剤は、どう見てもただの鎮痛剤で、


『さぁ、テオ先生。今日こそ良い返事ぅぼぉっ!?』

『健康体の分際で医者に迷惑かけんじゃねぇよ。俺が相手してやる。』


向こうの目的はあくまで『勧誘』、多少の脅しはあれど実際手を出す気はなかったはず。

あの男も余計なことをしてくれたものだと舌打ちすれば、警部から訝しげな視線を受けるのだった。







犬に、餌を与えた。

(だが当分、薬はなしだな。)

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嘘つき、ロンリー。