犬を、拾った。

結局、飼うことになった。


「モンローファミリー?」


便利屋の伝言を患者に伝えると、返って来たのは予想通りの薄い反応。

余所者の男にその名の重みが分からないのも無理はない。


ただ「俺なんかを雇おうなんて物好きだな」と呆れたように漏らされた感想は、皮肉にも的を射ていた。


「この話、受けようが受けまいがお前の勝手だが、とりあえず怪我が完治したら一度先方に顔を出しておけ。」

「あぁ、分かった。」


男が短く了承を返し、そこで不意に話が途切れる。

しばらく待ってはみたものの、男の方から口を開く様子も見られず、思わず溜め息を吐いた。


「……何か聞きたいことはないのか?」

「聞きたいこと?いや、別に…あ、そういやこの怪我、あとどれくらいで治る?」

「…本来ならもう完治していてもいい頃なんだがな、どこかの馬鹿のせいで退院はまだまだ先だ。」

「あー、その節はどうもスンマセンデシター。」


分かりやすく逸らされた目に、微塵も反省の色が感じられない声。

もう一度同じ問いを口にしようとして、それ以上の追求を止めた。


元々その手の世界に属していた男だ、聞かずとも「組織なんてどこも同じ」ということなのだろう。


それより当の本人よりも気にしていることが馬鹿らしく思え、そしてそんなこちらの様子に全く気付かない男は暢気に欠伸を漏らした。


「そうだ。俺暇だし何かやれることがあれば手伝いますよ、センセ。」

「…お前、入院の意味を解っているのか?」

「だって、このままベッドの上にいたら体がなまっちまいますよ。そしたら、そのモンローファミリー?ってとこでも使いもんにならねぇだろうし…ほら、アレっすよ。リハビリ?みたいな?」


頭ごなしに却下しても食い下がってくる患者はよほど暇らしい。

強請るためか低姿勢になったその姿はまるで「構え」と主張する、犬だ。


「…無理はするな。看護師に慣れろ。その二つが守れるなら考えてやってもいい。」





だがその後もどこかの馬鹿の退院は諸事情で何度も延期し、そしてモンローの下へ顔を出しに行くよりも先に、玄兎はいつの間にか『テオ医院の番犬』と呼ばれるようになっていたのだった。







結局、犬を飼うことになった。

(…色々と頭の痛いことはあったが、とりあえず二つ目の約束は守れたようなので大目に見てやろうと思う。)

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嘘つき、ロンリー。