せんせいのわんこ

わんこの特徴


イヌ科は嬉しいと尻尾を振る。

最近医学書の並ぶ本棚の一画を占めるようになった動物関連の書籍を一冊、暇潰しに手に取ったテオはその一文に目を留めた。


ちなみにそれら本の内の四分の一は当医院の看護師が買い揃えたもの、残り四分の三は便利屋やら警察やら様々な方面から自然と集まってきたものだった。

その意図するところは明白だったが、残念ながら一人だけ、それらを眺めながら不思議そうに首を傾げる男がいた。


『ニナはともかく…テオ先生も意外と動物好きだったんすね。俺、知りませんでした。』

『…………』


とりあえず話を戻す。

イヌ科は嬉しいと尻尾を振る、という話である。


(…尻尾……)


苦々しげに紫煙を吐き出しながら、テオは同じ部屋でモップ掛けをしている男の背中にちらりと視線を向けた。


テオ医院の「飼い犬」、玄兎。

その肩書きはただ当人の忠誠心を揶揄するものであり、当然のことながらその後ろ姿に尻尾は見当たらない。


はずなのだが。


『玄兎クンってホント分かりやすいよねぇ…ほら、テオ先生の前だとあんなにシッポ振ってるし?』

『ありゃあ、いつか引き千切れそうだな。見ていてこっちがハラハラすんぜ。』


そう言って笑う周囲の人間達には一体何が見えているのか。

医師の一人として少し興味はあった。


(まぁ、どうせいつもの、ただの皮肉なんだろうが…)


よほど集中しているのか、じっと背中に注がれるその視線に玄兎はいつまで経っても気付く様子がない。


「玄兎。」

「はい?」


ちょうど煙草を吸い終え、それを灰皿に押し付けるテオ。

呼ばれた玄兎は振り返ると、道具をその場に置いて、己が主人の下へと近寄っていく。


それが充分近付いてきたところで、テオは手を伸ばした。


「何です、っ」


そして無言でその頭を掻き撫でてやれば、尻尾などなくてもこれほど分かりやすいやつはいない、とテオは呆れてしまうのだった。




素直ね、tail。

(戸惑う声、落ち着きなく泳ぐ視線)
(だけどその頬はほんのりと赤く)

(ほんの一瞬、その口元が緩むのが見えた)


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こっそり悪男祭より。
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嘘つき、ロンリー。