ロバのゲーム

another


※最終話の話。
※最後の世界線で出会わなかった√。









「マジでここっすか…?」

「そー、ここっすよー。」

「や、ここって普通に結婚式場じゃないっすか。」


待合室を抜け出してトイレへと向かう途中、廊下に設けられた休憩スペースの前を通り掛かった九井は思わず舌打ちしそうになった。


(ココ、ココ、うるせぇな…)


聞き慣れた自身の愛称に似た言葉が繰り返され、耳がうっかりそれを拾い上げてしまったらしい。


ちらりとそちらを横目で盗み見れば、立ち話をする同年代ぐらいの男が二人。

どちらの顔にも見覚えがなく、かと言って式場スタッフという雰囲気でもなさそうだ。

恐らく今日は自分達以外にもこの建物を利用する客がいるのだろう、と見当を付けた九井だったが。


「正確に言うとここじゃなくて、向こうの別館にある会場を借りてるんだわ。そっちは結婚以外でも結構色々利用出来るっぽい?」

「へぇ…じゃあ、うちもそこで手打ちってことっすか?」

「まぁ、ナシはとっくに着いてんだけどなー…ほら、アチラさんってカタチに拘る人多いっしょー?だから」


聞くとはなしに聞こえてくるやり取りが、休憩スペース前を完全に通り過ぎたところでようやく途絶える。

だが、ほんの数秒聞いた限りでも、何となくその素性を察することが出来てしまい、一瞬嫌な想像が九井の脳裏を過った。


現役を引退したとはいえ、こちらの関係者には未だ血の気の多い人間も多い。


(…面倒事が起きなきゃいいが…)


折角の仲間の晴れ舞台だ。

戻ったら一応、稀咲や大寿などに話しておいた方がいいかもしれない。

その前に向こうの「会社名」を確認しておくべきか。

なんて考えを巡らせつつ、用を済ませた九井は再び休憩スペース前を通り掛かったところで、つい足を止めてしまった。


二人組の内の片割れが、いつの間にか白いタキシード姿に変わっている。

しかも、それはどこからどう見ても本日の主役の一人だった。


「あ、ココ君!」


九井の心情も知らずに暢気に手を振る武道。

流石に無視するわけにもいかず、溜め息一つ吐いてそちらに歩み寄れば、見知らぬ男の視線が突き刺さるのを感じた。


「オイ、新郎がこんなところで油売ってんじゃねぇよ。」

「え、別にそういうわけじゃ」

「結婚早々、嫁に愛想尽かされても知んねぇゾ?」

「うっ…そ、それじゃあまた後で!」


適当に脅しをかければ効果があったようで、慌てたように去って行く武道を見送り、九井は男の方に向き直った。

二人一緒に消えると思っていたのか、その場に残った九井に男は少し戸惑ったようだったものの、すぐに「えっと、どーも?」と愛想笑いを浮かべて見せた。


「アイツの知り合いか?」

「いやぁ、多分人違い?をされた、というか何というか…」

「人違い?」

「会ったことはない、と思うんですけどねぇ…でもこっちの名前は知って」

「玄兎さーん。」





『…誰に聞いたんだよ、その名前。』





「向こうさん、そろそろ着くそうっすよ。」

「おー、んじゃあこっちも移動しとくかー。じゃあこの辺で失礼を…あ、『本日はご結婚おめでとうございます』って、さっきの新郎さんによろしくお伝え下さい。」

「あ、あぁ…」


どこからか戻ってきた片割れに促され、「玄兎」と呼ばれた男が挨拶して背を向けるのに一瞬、九井は反応が遅れてしまった。


(何だ、今の…?)


何かを思い出しそうで思い出せない。

そのもどかしさに苛立ちを覚え、舌打ちする。


武道は一体、あの男と「誰」を人違いしたのか。

後で聞いてみるか、なんて考えながら待合室に戻った九井だったが、結局その後、式が終わる頃にはすっかり忘れてしまっていた。


『愉しけりゃあ何でもいいのよ、俺は。』





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嘘つき、ロンリー。