ロバのゲーム
extra
『…とにかく金が要る。』
俺の「悪い評判」を聞きつけてやって来る連中はそれなりに多く、九井もその内の一人だった。
だが遊ぶ金欲しさの他とは違い、妙に切羽詰まったその様子に何となく興味を惹かれた。
『金が要るって幾ら?具体的に言ってみろよ。』
『…………』
『理由言わねぇと、絶対手は貸さねぇ。いや、それどころか、もし「俺」抜きでやるようなら邪魔してやっから。』
後から知った九井の性格上、他人に弱味を見せるのは心底嫌だっただろうが、どうやらそれを上回るほど金が欲しかったらしい。
そして渋々吐き出した金額と、その事情は思っていたより大きく重く、ただ決して実現不可能な話でもなかった。
少なくとも、俺にとっては。
『だったら俺に「とっておき」がある。』
あれ以来、俺達は手を組んで荒稼ぎを続けているが、今のところそこそこ良好な関係を築いていると思う。
ただ思わぬ誤算といえば、一度総てを話してヤケになったらしい九井が、俺に対して何でも打ち明けるようになったことだろうか。
ラジオか何かのように聞き流していたのも、少しまずかったのかもしれない。
イヌピーにキスしそうになった、と言って頭を抱える九井に(こりゃ重症だわ…)と思わず呆れてしまった。
と同時に、今まで名前ぐらいしか知らなかった九井の「想い人」が、俺の頭の中で名前も顔も知っている九井の「親友」にすり替わり、何とも言えない複雑な気分になってしまう。
次に彼と顔を合わせた時、果たして俺は上手く笑えるだろうか。
(…まぁ、「次」なんてねぇんだろうけど。)
会ったのは一度きり、赤音さんの手術が無事に済んだ時のこと。
それも事故のようなもので、そもそも九井は赤音さんは勿論のこと、イヌピーにも俺を会わせるつもりなどさらさらなかったはず。
俺達は共犯者であって、友人でも何でもない。
互いに相手を利用し合っている、ただそれだけの関係。
気まずげに俺を紹介する九井は、まるで浮気がバレそうな彼氏のようでそこそこ笑えたが。
「姉弟二人に手ぇ出すなんて、九井クンもやるねぇ。」
「っ、まだ出してねぇよっ!」
「どうせ時間の問題だろ、賭けてもいいわ。」
俺の言葉に黙り込んでしまった九井自身、どうやら賭けに勝つ自信がなかったらしい。
いつかの警戒心が嘘のように、何とも正直なものだ。
本当に、重症だ。
「とにかくお前が変な扉開く前に、赤音さんにはさっさと元気になって退院してもらわねぇとなぁ?ということで、次の仕事の話なんだけど。」
ここ最近、イヌピーのために復活させた十代目『黒龍』に掛かる諸々の費用を稼いできたが、それらはそう大した金額ではなかった。
いつだったか九井が持ち込んできた企画で事足りたほど。
だが今回久々の赤音さん案件のため、それなりに大きな仕事になるはずだと思うと無意識に口元が弛んでしまう。
「…オマエ、本当変な奴だな。」
「あん?」
「稼いだ金、別に何かに使う様子はねぇし。下手すりゃ次の仕事に充てるか、こっちの取り分に回してんだろ?」
「愉しけりゃあ何でもいいのよ、俺は。」
俺の目当ては『金』ではなく、あくまで『金稼ぎ』というゲームだった。
だから九井に便乗し、勝手にそれを達成目標に設定したおかげでこれまで大いに愉しませてもらった。
ただ、愉しくて愉しすぎて、気付けばいつの間にか別のゲームにハマってしまっていたらしい。
「だからまぁ、お前も愉しめばぁ?」
「…リスクジャンキー。」
「何か言ったかよ、貢ぐくん。」
そして、ようやく笑った九井に一瞬、きゅっと胸が苦しくなったのは俺だけの秘密だった。
【ex stage】
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こっそりT卍R祭より。
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231129 短編夢より移動&加筆修正いたしました。
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嘘つき、ロンリー。