黒い楽園へようこそ

エデンからの追放者


目を開けて、まず最初に感じたのは視界を覆う強烈な白さだった。

そのあまりの眩しさに思わず開けたばかりの目を閉じて呻き声を上げると、どこからかぼそぼそと人の声らしきものが聞こえてきた。


そして、バタバタと慌ただしく遠ざかっていく複数の足音と、反対に静かにこちらへと近寄ってくる気配が。


「ルイくん?目が覚めましたか?」


呼ばれた名前にもう一度目を開けると、見下ろすようにこちらを覗き込む影。

おかげで少し光が遮られたのか視界もはっきりとし始め、真っ白な世界だと思ったそれがただの天井だと気付いた。


そこからゆっくりと視線を巡らせれば、どうやら自分は今、病院のベッドの上にいるらしいことが分かる。


「痛みますか?今医者を呼んできますからね。」


穏やかにそう話す男に見覚えはないが、スーツ姿のところを見ると病院関係者でもなさそうだ。

なら一体誰なのか、いや、それよりも何故自分は今こんな場所にいるのか?


(確か…車が事故って、父さんが…いや、その後に何か…?)




『地獄で会おうぜ。』




唐突に思い出した「悪魔ディアブロ」の声と、冷えるような胸の痛み。

反射的に身体を起こそうとした瞬間、息が詰まるような衝撃が走り、あえなくベッドに引き戻されてしまった。


男が小さく苦笑を漏らす。


「無理はしないで下さい。多少はまだ麻酔が効いてるとはいえ、君は胸を貫かれていたんですから。あと数ミリ、鉄の棒がズレていたら非常に危なかったそうですよ。」


その言葉に補足されるように徐々に記憶が甦っていく。


薄暗い製鉄所。撃鉄を起こす音。

そして、「悪魔」の正体。



『おめぇら犯罪者の方が悪魔だろうがよ。』


『オレは言うなれば「悪魔払い」かな。』



「お前も…警察……?」


あの「ひょうご」と名乗った男の仲間だとすれば合点がいく。

と納得するより先に「警察?」と相手が驚いたように言葉を繰り返し、


「まさか、君をそんな目に遭わせたのは警察の人間なんですか?…いや、でも…そうかそうか…なるほど、なるほどねぇ…だからいくら呼び掛けても誰も名乗り出なかったわけだ…」


最後の方は独り言のようにブツブツと呟きながら、さも可笑しげに笑う男の雰囲気が不意に変わった。


「申し遅れました、玄兎と言います。残念ながら警察ではなく、ただのしがないヤクザ者ですが。」

「ヤク、ザ…?」

「あぁ、君のお仲間達が蜂の巣にしてくれた連中とは特に縁もゆかりもないので、別に報復とかそういうつもりは一切ありませんのでどうかご安心を。」

「…………」

「ただねぇ、最近君達のように外から来られた方々に好き勝手にやられてこちらとしては困ってるんですよねぇ。郷に入っては郷に従え。我々のような人間にだって一応通すべき筋ってものはある、そうでしょ?なので本当はお父様を、ミスターガルシアを回収したかったのですが」

「玄兎さん。」


次第に加速していく玄兎の饒舌を遮り、「医者、連れて来ました」と誰かが病室に入ってくる。

その後ろに恐る恐るといった様子で白衣姿の男が続くと、玄兎は愛想良くそれを迎え入れた。


「失礼しました。少々お話が長過ぎましたね、続きはまた後程いたしましょう。」


今はゆっくりとお休みください。

そう続けた玄兎の声は元の穏やかなものに戻っており、まるで子供にするように一、二度頭を撫でられる。

麻酔の影響か、一方的に話された内容はほとんど頭に入っていなかったが、もうどうでも良かった。


(父さんは、死んだ……ボクもきっと…殺されて―…)









「―…寝たか?両手、両足に手錠をしてベッドの柵にでも繋いどけ。向こうじゃ『神の子』とか呼ばれている殺し屋だ、くれぐれも注意しろよ。」




【エデンからの追放者】

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嘘つき、ロンリー。