黒い楽園へようこそ

失楽園の始まり


「それで、仕事の方はどうだ?」


受け取ったばかりの書類に目を通しながらそう尋ねれば、隣から「問題ないよ」とどこか楽しげな声が返ってくる。

ちらりと横目でそちらを見れば、その明るい声色通りにルイはニコニコと笑っていた。


「職場のみんなも良くしてくれるし、今のところ上手くやってる。」


ルイに仕事を与えて、およそ半年。

その近況報告も兼ねて、店の収支報告書をルイに届けさせるようになってから今回三回目になる。

場所はいつも同じ、事務所とクラブの中間に停めた車の中で、後部座席に座って二人っきり。

運転役の部下は、玄兎に対して気安げな口調のルイを快く思っていない様子のため、外に見張りとして立たせてある。


当の玄兎自身はそう頻繁に関わり合う相手でもないとそのまま放置の姿勢で、海外生活の長いルイを今更躾ける気は毛頭なかった。


「よく女性客に粉かけられるんだってな。そっちでも上手くやってるわけだ。」

「それ、店長が言ったんでしょ。ボクは全部断ってるよ、本当だよ?」

「どうでもいいが、役目だけはしっかり果たせ。」

「分かってるって。」


玄兎がルイを送り込んだのは、抱えている系列店の中でも何かとトラブルの多い店。

店自体はしっかりと届け出を出した、「会社」が仕事で使うことさえない普通のクラブだが、客層が幅広いせいか店内は常に有象無象で溢れかえり、なかなか端々まで目が行き届かないのが現状だった。


だからこそ、元「麻薬カルテルの殺し屋」が姿を隠すのにも最適だと考えたのだが。


「例の売人はどうした?」

「うん、もう殺したよ。」

「…………」

「後始末は言われた通り、ちゃんと専門業者に頼んだからね。」


あっさりと変わらぬ口調で発せられたそれが、決して冗談ではないことはすでに経験済み。

以前のように、こちらが状況を把握する前に遺体が発見されるよりかは幾らかましだと何とか自分自身に言い聞かせながら、玄兎は再び手元の書類に視線を落とした。


「もしまたあの『悪魔』が現れたら、今度は必ず仕留めるから。玄兎さんには指一本触れさせないよ。」

「そうか、期待してる。」


入院中は「もう二度と関わりたくない」と答えていたルイだが、体調の回復と共に気が変わったのだろう。

特に気にすることなく話を聞き流した玄兎の隣で、やはりルイはニコニコと笑い続けていた。





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嘘つき、ロンリー。