黒い楽園へようこそ

パラダイスの入口


ズンズンと腹に響くような重低音。

負けじと飛び交う下品な笑い声や怒声に合わせるように、カラフルなライトが激しく点滅しながら薄暗いフロアを照らす。


そんな中、空いたテーブル席を回って再びカウンターに戻ってくるまでの間に、ルイは二度ほど二人組の女性客から声を掛けられた。

そして、回収してきたグラス類と共に計四人分の連絡先を手にしたその姿を見て、同僚達が呆れたように(どこか羨ましそうに)溜息を吐く。


「お前、こんなクラブよりホストとかの方が向いてんじゃね?」


確か系列店の中にちょうどいい店があったはず。

店長に頼めば推薦してもらえるかもしれない。

なんて当人を余所に盛り上がる外野の様子に苦笑しつつ、ルイは適当に近くにあったゴミ箱に持っていたメモをそっと捨てた。


退院後、住居としてルイが案内されたのは「会社の寮」だというマンションの一室。

仕事は同建物の地下一階部分に当たるここ、クラブの従業員兼用心棒だった。

玄兎がオーナーをやっているらしいが、入院中に顔馴染みになった人間は一人もおらず、店長でさえ「何か訳有り」程度の認識で詳しい事情は聞かされていないと言う。


『あの玄兎さん直々にわざわざ連れて来た、ってことはよっぽどなんだろ?んなもん、むしろ絶対に聞きたくねぇわ。』


そう迷惑そうに吐き捨てた店長も同僚達の言う通り、出来ることなら推薦でも何でもいいからさっさとこの厄介事の種を追い出したいところだろう。

もしかしたら、すでに直接玄兎に進言した後である可能性もある。


だが、同じ夜職でも玄兎がルイに求めている「役割」は違う。



(………あ。)



「ルイ?」

「ごめん、一カ所忘れてた。取ってくるからコレ、頼めるかな?」

「おう、いいぞ。ほら、お前らもそろそろ仕事に戻れよ。」

「へいへい。あ、そういや知ってるか?この間ここで騒いでた客が―…」


雑談を続けながらも各自持ち場へと散らばっていく同僚達に合わせ、ルイもその場を離れる。

ただし、その足が違う方向に向かっていることには誰も気付かない。


フロアの片隅。

どんなに大声を張り上げても隣の人間に声が届かないような喧騒の中、顔を寄せ合うようにして何やら話し込む男性客が三人。


(二人は前にも見たことある顔だけど、あと一人は…)


話がまとまったのか、動き出した三人は更に店の奥、レストルームに通じる通路へと入っていったため、ルイも少し間を置いてその後に続いた。



『お前が使えるかどうか、しばらく様子を見る。』



退院以降、玄兎が穏やかな口調も笑みも取り払ったのは、恐らくルイに対して「客」扱いするのを止めたからだろう。

向けられる眼差しだけは変わらず冷たいまま、信頼には程遠かったものの、今はそれで充分だった。


『神の子』は生かされた。

だから、これまで父親と組織のためだった代わりに、これからは玄兎と「会社」のために邪魔者を―…




「ねぇ、君達。ちょっといいかな?」

「あ?」





【パラダイスの入口】

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嘘つき、ロンリー。