犬ホームズと助手01
「まいどー…って、うっわ。何すか、ここ。ひどい匂いっすね。」
アンモニアから香水を精製するという、価値があるのかないのかよく分からないホームズの実験から数日後。
ようやくその匂いも薄れてきたかと思えば、訪れた白兎君の第一声がそうではないことを告げていた。
それに思わず苦笑いをしていると、「あーそうそう」と白兎君は本来の用件へと戻る。
「ホームズさんに頼まれていた資料をお持ちしましたー。」
「すまないがワトソン、代わりに受け取ってくれませんか。」
次の実験の準備だろうか。
白兎君の来訪にも振り向くことなく、何やら器材をガチャガチャと組み立てているホームズ。
いつものことなので特に気にすることなく私はソファーから腰を上げ、言われた通り資料を受け取ろうと、
「おや、白兎君。君、香水でも付けているのかい?」
「いやぁ、今回ちょっと淑女達の社交の場に潜入していたもんで。」
「あぁ、なるほど。」
異臭に慣れきった鼻先に、ふわっと掠めた甘い匂いは確かに女性物だ。
ホームズがよく情報収集を頼んでいるようだから、その一環で、なのだろうと納得した。
「僕も見てみたかったですね、君のドレス姿。」
だからホームズの言葉に一瞬、反応が遅れてしまった。
「何だって?」
「白兎君は『潜入』としか言っていないから、給仕係りとは限らないでしょう。部屋に入ってすぐ、僕のところまで香るくらいだ。これは移り香なんてレヴェルじゃない。…尤も、ワトソン君は側に近寄るまで気付かなかったようですがね。」
相変わらずホームズはこちらを見ないまま、何だかよく分からない作業を続けている。
ここは白兎君自身に真偽を問おう。
そう改めて白兎君の方に向き直ったところで、引き攣った笑みが総てを物語っていたのだった。
「まったく、無駄な推理すね。」
探偵さん、お鼻がよろしいようで
「本当に…?いや、それよりもホームズ。この匂いの中でよく嗅ぎ分けたもんだ。」
「なに、ちょっと注意していれば分かることですよ。ところで白兎君、今度君がドレスを着る時はぜひ僕にエスコートさせてくれたまえ。」
「いやぁ、謹んで辞退させていただきます。」
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嘘つき、ロンリー。