ミハイルと幼馴染02


真っ赤なソファーに身を沈め、頬杖を着きながらミハイルはぼんやりとその光景を眺めていた。

少し離れた場所に座り、少女を膝に乗せてその髪を整える『人形』の姿を。


「白兎ー?まぁだー?」


バタバタと足をばたつかせたラリーサが見上げるように首を反らした瞬間、白兎の手の中から白い髪がサラサラと滑り落ちていく。

もう少しで綺麗に纏まるところだっただろうに、白兎は不平を言うこともなければ顔色を変えることもなく、ただ再びそれを掬い始めるだけ。


不意にタマーラが「次は私ね!」とその首元に飛び付いてもなお、瞬き一つしなかった。


(……そういえば昔、ユーリィの髪もああやって…)


少し癖のある弟の髪に四苦八苦しながらも笑っていたのをよく覚えている。

だが、その時の笑顔を思い出そうとしてミハイルはそっと目を閉じてみたものの、どうしてもそこに浮かんでしまうのは、







『、ミハッ…ミハイルッ……?』


赤黒く染まった雪上に横たわる白兎。

その顔は涙や血に濡れ、苦しげに歪んでいる。


そしてようやくミハイルは、自分が白兎の上に覆い被さっていることに気が付いた。


慌てて飛び退けば辺りはすっかり暗く、真っ黒な森の中に散らばって光る無数の「赤」が二人を取り囲んでいた。


『なん、で……』


混乱から漏れ出た声は掠れ、その瞬間鼻を刺激した血のニオイに思わず口元を手で覆う。

何故だかすぐに白兎のものだと分かったが、本来生臭く感じるはずのそれは今、甘く香ってミハイルを誘っている。


(っ、だめだ…このままじゃ…っ!)


とにかく白兎から離れなければ。

そう思い、さらに後退ろうとしたミハイルに何を察したのか、白兎は反射的にその腕を掴んで引き留めた。


『っ、白兎…っ!』

『いやだ…お前まで俺を、……俺を、置いていかないでくれ……っ!』


シリウスのこともヴァンパイアの存在も知らなかった白兎は、まず間違いなくミハイル以上に混乱しきっていた。

そうでなくても、このほんの少し前に得体の知れない「何か」に目の前で仲間を喰われ、父親を殺され、母親の悲鳴から逃げてきたばかりだったのだろう。


最早他に頼れる者がいなかった、ただそれだけでその言葉に他意はなかったのだ、と冷静になった今ならそう思う。


だがあの時のミハイルは、そうは思わなかった。

その隙に、付け込まれてしまった。


『―…いいだろう。お前達の望み、叶えてやろうじゃないか。』







悲痛なる慈悲


ソファーで微睡んでいたミハイルが不意に立ち上がった、かと思えば、そのまま去っていく姿が白兎の視界の端に入り込む。

それに気付いたのは場所を入れ替わったラリーサとタマーラも同様らしく、「ミーシャ、どうしたんだろう?」「ねぇ?」と不思議そうに首を傾げ合う二人。


その瞬間、タマーラの髪もまた白兎の手から滑り落ちたのだった。

(ただ愉しげに笑い声だけが、響き渡る)


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八周年企画より。
企画へのご参加ありがとうざいました!


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嘘つき、ロンリー。