黒と大家の孫01
「あ、これうまそう。」
「じゃあ、それにするか?」
「んー、でも気分的にはこっちも捨てがたいんだよなぁ…迷うなぁ…」
「ならそっちは俺が注文するから、半分ずつ分けるか。」
「え、いいの?ありがとう、李さん!あ、でも一皿でいいからね?俺、そんなに食べられないし。後は李さんの好きなものを頼んでよ?」
「あぁ、分かった。」
とあるファミレスの一席にて、向かい合わせに座った少年と青年。
通り掛かったウェイトレスを呼び止めると二人は料理の注文を済ませ、その後も何やら楽しげに笑い合っている。
といっても声を上げて笑っているのは専ら少年の方で、青年はその表情を柔らかく弛めるに留めているが。
「俺、李さんの手料理大好きだけど、たまには外食もいいよね!」
「そうだな。」
悪くはない雰囲気、端から見ればまるで兄弟か何かのようだ。
そして「俺、ちょっとトイレに行ってくる」と少年が腰を上げると、すぐさま青年は再びウェイトレスを呼び止め、デザートの追加注文を行った。
と、次の瞬間。
「…それで何の用だ?」
仕事が入ったのか、と無表情になった青年が問い掛ければ、答えは背後から返ってくる。
いや、返ってきたのもまた問い掛けだった。
「おい、黒…ありゃ何だ…?」
「『海月荘』の大家の孫だ。」
「んなことは知ってる。」
背中合わせのまま交わされるその会話は周囲の雑音に掻き消され、他の誰の耳にも届かない。
ふと背後の男が舌打ちする。
「ついでに無類の猫好きだってことも知ってるぞ。」
「…………」
「何でもマオが近くにいたら取っ捕まえては撫でさせてやるんだって?」
「…………」
「それから雨が降った日にゃあ傘持って学校まで迎えに行ってやったりしてるそうじゃねぇか。銀に聞いたぜ?」
「…………」
「…まさかとは思うが、銀にあの兄ちゃんを監視させている訳じゃあねぇよな?」
「…………」
「おい、黒?」
不気味なその沈黙に男は何度振り向きそうになったことか。
苛立たしげな呼び掛けに対し、青年が何か口を開きかけ、だが少年が戻ってくるのが見えて止めた。
「あー、お腹空いた。料理、まだ来てない?」
「まだだな。」
「そっかぁ…まぁ、あの量じゃ仕方ないか。」
「それで、これからの予定は?」
「えっと映画観て、本屋寄って、それから―…」
指折り数える少年を、目を細めて見守る青年の顔には先程までの表情が戻っている。
男はもう一度小さく舌打ちすると、乱暴に席を立ったのだった。
嘘吐きめ、
(『李舜生』として会ってる癖に、ほとんどいつもの黒じゃねぇか)
(一体何考えてやがる?)
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嘘つき、ロンリー。