黒と大家の孫02


「李さん。手、繋いでいい?」


そう言って、「李舜生」の顔を覗き込むように首を傾げる白兎。

返事の代わりにその手を取ると白兎が嬉しそうに笑うため、つられるように「李舜生」の表情もついつい弛んだ。


この光景を再び黄が見れば、きっと苦い顔をしたに違いない。

が、二人が映画館に入る少し前、飲食店にて接触してきて、それっきりだ。


流石に仕事と関係ないことで(いや全くの無関係という訳でもなかったが)、そう何度も構ってくるほど黄も暇ではないのだろう。


そして、そんな黄に構うほど「李舜生」こと黒も暇ではなく、その存在はすでに頭の中から消し去ってしまっていた。


「李さんは何か欲しいものとかないの?」

「いや…」

「李さん、部屋にあんまり物とか置いてないもんね。」


映画館を出た後、本屋も一通り巡り終え、現在黒達二人がいるのは適当に見付けた雑貨屋だった。


繋いだ手をぶらぶらと振りながら、陳列棚の前をゆっくりと歩く白兎に合わせて黒も進む。

白兎の方も、特に「これ」と言って目的はないらしい。


「というか、俺が置かせてもらってる荷物の方が多いよね。もうほとんど俺の隠れ家というか…今度俺が『猫、飼いたい』とか言い出したら、飼っちゃう勢いだよね。」


勿論、冗談のつもりで言った白兎は知らない。


黒が白兎のために、一度は真剣にそれを検討したことを。

だが折角の二人っきりの空間も捨てがたく、今しばらくは知り合いの「猫」で我慢してもらおうと結論付けたことを。


実際に我慢するのは「誰」なのかということを。


白兎は、何も知らない。


「あ、写真立てとかどう?」


ふとその陳列棚の前で立ち止まった白兎に合わせ、黒もまた足を止める。


「ほら、李さん、よく撮ってるでしょ?」と首を傾げる白兎は、どうやら黒の持つ天体望遠鏡をカメラか何かと勘違いしているらしい。

が、黒は特にそれを訂正せず、ただただ白兎を見つめ返し、


「今日のお礼に俺、プレゼントするから!家族とか恋人の写真、飾ってね!」


返事の代わりにその手を、ぎゅっと、握り返したのだった。





不相応な対価

(とりあえず使い捨てカメラだけは買って帰ろうと、黒は心に決めた)
(撮るのは勿論、)


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嘘つき、ロンリー。