一郎彦と叔父01


※猪王山弟主。
※一郎彦、幼少期。











そろそろ飯の時間か。

そう鼻先をヒクヒク鳴らしていると、持っていた竹刀を弾き飛ばされてしまった。


「…あー、まいったまいった。腕を上げたじゃないか、一郎彦。」


軽く痺れた手を解しながら「ここらで切り上げるか」と提案したものの、正直あまり期待はしていなかった。


父親に似て、真面目な質の甥のことだ。

先程俺が落としたばかりの竹刀をずいっと差し出し、「夕飯までまだ少し時間があります」とか何とか、こちらの心の中までしっかり見透かすことだろう。


弟の次郎丸なら「腹へったー!」と同調するはず、同じ兄弟でもえらい違いだ。


なんてしみじみ思いつつ、一郎彦の次の言葉を待っていたのだが、返ってきたのは予想外のものだった。


「…叔父上は、僕のことがお嫌いなのですね。」

「は、」


何だ、いきなり。

呆気に取られていると、いつも真っ直ぐにこちらを見上げている一郎彦の視線が、徐々に徐々に、下へ下へ。


「僕にはまだ、父上のような立派な牙が生えていないから…」

「お、おいおいおい…誰もそんなこと、言っていないだろう…?」


少々歯切れが悪くなったのは、牙の話を持ち出されたからだ。

その出自を考えると下手なことは言えない、というかこの様子では兄貴の野郎もまだ何も話していないらしい。


そして、そんな俺の様子を賢い甥は深読みしてしまった。


「…やっぱり、僕のこと…」

「す、好きだぞ!一郎彦のこと!牙なんてあってもなくてもなっ!」


完全に俯いてしまった一郎彦を、ほとんどヤケクソ気味に叫びながら抱え上げる。

驚いた一郎彦は慌てて俺の首にしがみついた。


「叔父上…」

「稽古は終わりだ。飯行くぞ、飯。」


流石に嫌がるか恥ずかしがるかするかと思ったが、腕の中の一郎彦は意外にも大人しい。

なのでその背中を二、三度叩いて、抱き抱えたまま歩き出した。


とりあえず、兄貴には今度色々と進言しておこう。

なんて考えていた俺は、一郎彦が必死に笑いを堪えていることなど気付きもしないのだった。




ワザとあり一本!


「兄ちゃん、ずるい!また一人だけ、白兎のおじちゃんに稽古してもらってた!」

「お前が外に遊びに行っているのが悪いんだろう?」

「うーっ…それに抱っこだって!オイラがいくら頼んでもやってくれないのに!」

「あの人には言っても無駄なんだよ。自分から進んでするように仕向けないと。」


(当然、後にそんなやり取りがあったことも知らない。)


---------------
プチ☆夏フリリク企画より。
企画へのご参加ありがとうございました!


次#


戻る

嘘つき、ロンリー。