一郎彦と叔父03


※猪王山弟主。
※一郎彦、青年期。













「でかい図体が増えて狭苦しい」と多々良に嫌味を言われながらも、熊徹のところで厄介になって早半月。

早々に追い出されるか、てっきり迎えが来るかするだろうと思っていただけに、これは全くの予想外だった。

居候として家事をしながら、熊徹の弟子・九太の稽古相手をしながら、俺は帰るタイミングを見失っていたのだった。


いっそこのまま一人、放浪の旅にでも出てしまおうか…なんて考えていると、それを察したらしい百秋坊が苦笑した。

そして、あることを俺に教えてくれた。


兄貴の弟子達は今も俺のことを必死に探し回っており、それも半泣きの状態で少し憐れに思えるくらいだった、と。


「正に、灯台下暗し、と言うべきか…ここにお前がいるなど、夢にも思っていないらしい。」

「……………」


そろそろ帰ろうと思い立ったのは、子供じみた己の所行を省みて、というのも勿論ある。

が、それと同時に、兄貴の優秀な弟子達に柔軟性というものを叩き込んでやろうと心に決めたためでもあった。









…と、自身の未熟さを棚上げしたのが不味かったようだ。

こういう部分が、宗師を目指す兄貴との決定的違いなのだろう。


家に帰った途端、俺は速攻で件の甥っ子に捕まっていた。

いや、背後から拘束されているため、それが一郎彦なのかどうかまだ分からないが、腹に回された細い両腕を見る限り、まず間違いないだろう。

そしてこれが次郎丸による襲撃云々ならば、猪突猛進、正々堂々、真正面から来るはずだ。


「あのな、一郎彦。」

「ごめんなさい。」


とりあえず説得が先で、実力行使はその後だ。

と口を開いたものの、ぽつりと返されたまさかの謝罪に不意打ちを食らってしまい、俺は二の句を継ぐことが出来なかった。


戸惑っていると、聞こえてきたのは、すんっと鼻を鳴らすような音。


(まさか、泣いてる…?…反省している、ということか……?)


「……………」


まぁ、色々問題はあったものの、なんやかんやで可愛い甥っ子だ。

若い過ちは誰にだってあるし、俺も少し大人げなかったように思う。

だから「もういい、分かったから」と頭を撫でてやろうとしたが、如何せん背後から抱き着かれた状態では難しい。

どうにか体勢を変えようとしたものの、何故かそれも上手くいかなかった。


「なぁ、一郎彦…」


二度目の呼び掛けに返事はなく、それどころかその腕にはますます力が込められる。

すんすんと鼻を鳴らす、音。


その瞬間、俺は悟ってしまった。


(あ、こいつ、反省する気なんざさらさらねぇな…)


そして、向こうがその気ならこっちも徹底抗戦の構えで臨んでやろうと、そう心に決めたのだった。





こざかしい一本!

(そんな俺達の攻防を、新しい鍛練か何かだと勘違いしたらしい)
(たまたま通り掛かった次郎丸が参戦してくるのは、もう少し後の話だ)


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嘘つき、ロンリー。