臨也と弟01


「人、ラブ!俺は人間が大好きだ!愛してる!」


両腕を広げ、空を仰ぎ、肺の中の空気を全て出しきる勢いで。

まるで何かの演劇のようだと一瞬冷静で正常な思考が過ったが、特に気に留めることなく俺は堂々と最後まで言い放った。


実際この台詞がどのような場面で言われたかは知らないが、俺の中の『折原臨也』のイメージは大体こんな感じだから問題もない。


「…ってこれ、一度言ってみたかったんですよね。」

「そう。満足したかい?」


たっぷり余韻に浸ること1、2秒。

そして背後から求められた感想に答えるまでに数分掛かった。


「まぁ…大声を出すだけで気持ちいいですよね。」

「要するに『微妙』ってこと?」

「なんなら先輩もやってみたらどうです?百聞は一見にしかずですよ。」

「遠慮しておくよ。僕には夏炉冬扇、月夜に提灯さ。」


振り向けば、今夜の見届け人である岸谷先輩が相変わらずの白衣姿で苦笑しながら肩を竦めて、


「それで…君は結局、何がしたかったんだい?」


何が、したかった。

過去形のそれがタイムオーバーであることを示していて、俺は先輩に倣うように肩を竦め、着ていた黒いコートを脱ぎ捨てた。

もう随分と長い間愛用していたが、一向に愛着というものは涌かないから不思議だ。


「兄貴のマネしてれば面白おかしく生きていけるかと思ったんですけどね…結局、平和島さんに追い掛けられるぐらいしか面白いことなんてなかったし。」

「…それを面白いって言える君も充分変わっていると思うけどね。」

「いやいや、俺はごくごく平凡で矮小な一好青年ですよ。ちょっと爽やか二枚目の。」

「まぁ、臨也のマネしたところで百害あって一利なし。これで良かったんじゃないかな。」

「ちょ、岸谷さん。今のはツッコミ待ち!」


明日になればきっと俺は、『折原臨也もどき』から『折原臨也になり損ねた折原弟』と呼ばれるようになっているだろう。

折原白兎なんて名前、この岸谷先輩ですら覚えているかどうか怪しいものだ。



『それで…君は結局、何がしたかったんだい?』



そしてきっと今この瞬間、監視カメラの向こうで笑っているだろう兄貴に対し、俺は中指を突き立ててやるのだった。








×××・コンプレックス

(あんたを理解したかった)
(ただ、それだけだ)


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嘘つき、ロンリー。