【しのびのこども】07


※誰かと百地主(煉獄)。







「あぁ、先日はどうも。」


茶屋で一人休んでいるところへ何気なく掛けられた声に、つられて顔を上げた瞬間、思わず噴き出しそうになった。

同業者のその男は不思議そうに首を傾げる。


「何か?」

「君…もしかして普段からその格好を…?」

「?どこかおかしいですか?」


私の言葉に上半身を少し捩り、己が姿を見下ろす男。

それはどこにでも居そうな町人の装いだったが、問題はそこではなく、その顔面を覆った黒い布だ。


漢字が一文字、白く記されている。


改めて私がそれを指摘すると、男は「あぁ、こちらですか」と頷いた。


「皆さん、旅芸人か何かだと思われているのかもしれません。まぁ、そもそもこんな輩の存在など、誰も彼も気にも留めておられませんが。」


男が私の隣に腰掛けるのを見計らい、店の娘さんが注文を取りに来た。

確かにその様子は男の言った通り、特に気にしている素振りは見られなかった。


注文を終えた男がまたこちらへと向き直る。


「これに気付くのは仕事でお会いした方ぐらいですよ。貴方のように。」


もしくは、あちらのように。

そう言って男が私の背後を指し示す。


一瞬、空気が揺れた。


「…ひどいな、折角泳がせていたのに。」

「あぁ、それは失礼。お詫びにここは私に奢らせて下さい。」


断る間もなく男が立ち上がる。

ちょうど先程の店員がお茶と共に注文の品を運んできた、かと思えば、何故かそれらは私のもとに置かれた。


「それでは、ごゆっくり。」


そして男は静かに立ち去り、背後の気配もまた、いつの間にか消え去っていた。




水面に映るは独り

(獲物を奪ったお詫び、にしては少々安上がりなのでは?)(手に取った湯飲みを見下ろして、そう苦笑してしまった)

*前


戻る

嘘つき、ロンリー。