絳攸と吏部官吏03
今現在、俺は出奔を考えています。
いや、決して冗談なんかではなく、割と切実に。
俺はもう疲れたよ…と、無性にもふもふした大型わんこに抱き着きたい。
仙洞省に行きたい。
うーさまに会って癒されたい…!
それもこれも数日前、とある酒の席で披露した自虐ネタが原因だった。
自業自得?…そこはまぁ、ひとまず脇に置いておくとして。
恐らくその時の同席者は誰も覚えていないだろう「それ」を、ただ一人、しっかりと記憶した挙げ句に本気にした人物がいたのだ。
その名も氷の長官、紅尚書。
そして一体どういう思考回路でそうなったのか、「それ」をネタに俺を自身の執務室に軟禁、強制労働を課してきた………訳だが、つい先日何故か唐突に解放された。
俺の必死な主張がようやく通じたのか、それとも必死過ぎる主張に引かれたのかは分からない。
一説によると、見かねた李侍郎が進言してくれたとか何とかかんとか。
それがもし本当なら、李侍郎には心の底から感謝を捧げたいところだ。
が、さっきも言った通り、俺は今、本気で出奔を考えている。
その最大の原因が実はその李侍郎だったりするので、あまり素直に喜ぶことが出来ないのだった。
例えば、廊下で見慣れない官吏が書簡を派手にぶちまけた時。
それを拾う手伝いをしていると、不意に同じように手伝っていた誰かの手と手が重なった…と思えば相手は李侍郎だったり。
例えば、廊下で見慣れない官吏が「手が塞がっているから代わりに戸を開けてくれ」と頼んできた時。
言われた通りに戸へ手を伸ばすと、勝手にそれが開いて向こうにいた誰かの胸を触ってしまった…と思えば相手は李侍郎だったり。
例えば、廊下で見慣れない官吏が「おっと失礼!」と誤って水を掛けてきた時。
仕方なく着替えるために近くの空き室を探して中に入ると、先客の誰かが半裸になっていた…かと思えば相手は李侍郎だったり。
「というか、普段探しても探しても探しても見付からない癖に!何で会いたくない時に限ってすぐ近くにいるんだよ、アンタ…!」と、何度その胸ぐらを掴んで揺さぶってやりたい衝動に駆られたことか。
恐らくそれをやった瞬間、
どこからともなく扇が飛んでくるだろうから何とか自制はしたが。
ちなみに「見慣れない官吏、多すぎじゃね…?」とも思ったが、そこは深く考えたら負けだ。
きっと俺の知らない間に大規模な人事異動でもあったのだろう、うん。多分、絶対そうだ。
だから先程、廊下を歩いていた俺に背後からぶつかってきた官吏も見慣れない顔だったに違いない。
そして、その勢いで通りすがりの誰かを巻き込んで倒れてしまったと思えば、
「っ、すみません!大丈夫で、すか……」
押し倒すように下敷きにしていた相手は、例によって例の如く李侍郎でした。
またアンタかよ…!
じわじわじわ
既成事実って知ってるかい?
それは世にも恐ろしい、「本当」の話。
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八周年企画より。
企画へのご参加ありがとうございました!
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嘘つき、ロンリー。