絳攸と吏部官吏02


「しばらく来るな。」


そう言われ、吏部を追い出されたのはつい先日。

それが『休暇』を示していると知ったのは、後に百合様に相談した時だった。


「それは多分、黎深なりの親心なんだよ。だから受け取ってあげてね。」


そんな後押しもあって、残された山積みの書類が多少気になったがありがたく休むことにした。


(と言っても“主上の見張り”があるんだが…)


「こーゆー…」


疲れ切った主の声にふと我に返る。


「…何だ?」


机上にはまだ幾つか書類が残っている。

睨み付けているとすぐ隣から苦笑がこぼれた。


「あまり根詰めても能率が悪い…少し休憩にしたらどうだい?」

「楸瑛…お前はまた甘いことを言って」

「こーゆー…」

「………はぁ。」


妙なタッグを組まれ、渋々折れる。そして処理済みの書類を手に取り、「少しだけだぞ」と言い残して執務室を出た。




***




「おや、李侍郎。まだお休みのはずでは…?」

「……少し様子を見にな。」

部屋に入ってからというもの、ずっと視線が付きまとい、絳攸は居心地の悪さを感じていた。

そしてようやく官吏の一人に声を掛けられ、ますますばつが悪くなった。


まさか「戸部に行くつもりが吏部に来てしまった」とは口が裂けても言えない。


「何か変わったことは?」

「そうですねぇ…」

「そう言えば最近の尚書はよく仕事がはかどっておられるようで、」


扉の開く音に言葉が途切れる。

つられるように視線を向ければ、ちょうど執務室から若い官吏が出てくるところだった。


「あれは確か…」


白兎、という名前だったか。

どこか気だるげな雰囲気を漂わせながら、片手に抱えているのは『尚書から』の書類だろうか。


「え?あぁ…よく分からないんですが、李侍郎と入れ替わるようにして尚書室に入り浸っているんです。」

「あの、尚書室に…?」


むしろ引きずり込まれたのでは…

そう喉まで出かかって飲み込む。


見られていることに気付かないのか、呑気に欠伸をする男に何となく罪悪感を感じた。


「おい。」


恐らくは自分の身代わりだろう。

謝罪の意を込めて声を掛けた瞬間、


「り、李侍郎…っ!?」


目が合うと同時に白兎は顔を引きつらせた。

様子がおかしい。


「おい…?」

「なな何でもありませんよっ!?こっこれは自分から進んでやっていることでして!本っ当に何も…っ」


だからどうぞ李侍郎はごゆっくり休んでいてください!

そう有無も言わせず一方的に言い放つと、白兎は再び尚書室へ戻って行ってしまった。


「「「………」」」


何とも言えない空気が吏部内に流れる。


(嗚呼、また一人…)


そして中途半端に挙げた己の手に気付き、絳攸は静かにそれを下げたのだった。





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事情を知らない第三者。

事情は知らないがとりあえず合掌。

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嘘つき、ロンリー。