甚爾と恵と恵の義兄02
※平和軸if設定。
※恵、中学時代。津美紀成代主。
『…白兎。』
『え?』
前を歩いていた白兎が足を止め、振り向いた瞬間、恵はその肩の辺りを浮遊していた「黒いもの」をはたき落とした。
そんな恵の動作を一瞬不思議そうに見ると、すぐに察したらしい白兎が「あぁ、」と納得の声を上げる。
『また何か付いてた?』
『…うん。』
『そっか。ありがと、取ってくれて。』
『……別に、』
大したことじゃない、と続けた言葉が少し尻すぼみになってしまったのは、にっこりと向けられた笑みに何となく居心地の悪さを感じたから。
顔まで背けてしまった恵に再び白兎は不思議そうに首を傾げたが、残念ながら今度はその理由が分からなかった。
分からないまま、恵の手を取った。
『あ…』
『帰ろう、恵。』
『……うん…』
恵が小さく頷くと同時にその手を引きながら歩き出す白兎。
その背中に一度チラリと視線を向けると、恵は繋がれた自分の手を見下ろした。
たった今、白兎には「見えないもの」に触れたばかりの手。
数日前、恵のそれを振り払った『母親』はあれっきり家に帰ってきていない。
気味が悪かったのだろう、実の子ならばまだしも再婚相手の連れ子では無理もない話だと幼いながらに恵は理解していた。
だけど白兎は、恵の兄は、血の繋がりがないと知っても変わらず『兄』のままだ。
だから―…
「…いい加減、そういうの止めろ。」
「あ?」
学校からの帰り道、どこからともなくふらりと現れた甚爾。
かと思えば「何だ、白兎はいねぇのか」の第一声に、恵が舌打ちで返したのは少し前のことだ。
白兎は日直の仕事で遅くなると苦々しく告げれば、「じゃあ迎えに行かねぇとな」といつもの軽薄な笑みをニヤニヤ浮かべ、本当に来た道を引き返そうとする甚爾を恵は呼び止めた。
その声は思ったより低く、そして振り向いた甚爾に向ける視線は無意識に鋭い。
前々から甚爾の、白兎に対する態度が気に食わなかった。
義理とはいえ、白兎は恵の兄であり甚爾の息子だ。
だから甚爾は甚爾なりに白兎のことを可愛がっているつもりなのかもしれないが、傍から見ているとそれは親子以上の、いや親子以外の「何か」に見えて仕方なかった。
今のところ当の白兎に嫌がる様子は見られず、甚爾の冗談混じりのスキンシップにも笑って付き合ってはいるが、それもいつどうなるか分からない。
その時、万が一、白兎が傷付くようなことになれば。
「だから、もっと父親らしく…」
「まさかそれ、本気で言ってねぇよなぁ?」
「あ?」
揶揄するようなその声色に反射的に眉を顰める。
が、次の瞬間、目を見開いた。
「お前、本当俺そっくりだな。」
そう言って「本当嫌になるくらいだ」と笑う『父親』の目が笑っていないことに、恵は気付いてしまった。
夕暮れのチャイム
(お遊びが終わる、その瞬間)
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嘘つき、ロンリー。