キッドととある資産家の息子02
※ヤマダくん(仮名)とタナカさん(仮名)
※モブ視点。
私がお世話を任されている、白兎坊ちゃんは少々世間知らずなところがあります。
幼少の頃よりお体が弱く、学校も登校したりしなかったりの繰り返しだったため、外部との接触が少なかったせいでしょう。
いえ、もしかしたらそもそも物事に対する興味や関心といったものが薄い性分なのかもしれません。
その証拠につい先日、私の雇い主である白兎坊ちゃんのお父上の元に届いた『怪盗キッドの予告状』についても、特に反応らしい反応を見せることはありませんでした。
あの世間を賑わせている怪盗の予告状ですよ?旦那様もきっと白兎坊ちゃんが喜ばれるだろうと思って張り切ってお話ししたようですが、いつもの定期連絡と同じく普通にスルーされてしまい、その後ひどくションボリされていたそうです。
私もその時は詳しい話を聞けずに終わってしまい、ひどくションボリしてしまったものです。
だって、何度も言いますが、あの怪盗キッドの予告状ですよ?
恐らくそれを目当てに、久しく途絶えていた白兎坊ちゃんの同級生の方々から連日訪問を受けたぐらいです。
残念ながら当の坊ちゃんがアレだったため、ミーハー心を満たされなかった皆様の後ろ姿の何と寂しげだったことか。
見送りながらその心中を痛いほど察し、いずれ別宅勤務の使用人仲間から事の仔細を聞き出した暁には、必ずお話しして差し上げようと思いました。
と、そんな矢先、件の人物はやって来たのです。
『タナカさん、ヤマダくんの手品が凄いんだ。一緒に見よう。』
その後、予告状通り旦那様の所有する宝石が盗まれ、そして何故だかすぐに戻ってきて早数日。
「―…失礼します。お飲み物をお持ちいたしました。」
そう一言断りを入れ、カートを押しながら部屋へと入ると、中からそれに応える声が二人分聞こえてきてホッと安堵しました。
一つは勿論白兎坊ちゃんのもので、もう一つはあれから毎日のように顔を出すようになった坊ちゃんの同級生「ヤマダ」様。
二人は私の姿を認めると、再び会話の続きに戻られました。
とは言っても話すのは専ら「ヤマダ」様で白兎坊ちゃんは聞き役に徹しているようですが、お茶の準備をしながらそっと横目に窺ったその様子はとても親しげで、何も知らなければ「あぁ、あの坊っちゃんにもお友達が…」と感慨深い思いがしたことでしょう。
何も知らなければ、です。
ですが、私はその正体を知っていました。
「タナカさん、ヤマダくんがまた新作の手品を見せてくれるって。」
「…申し訳ありません。まだ片付けなければならない仕事が残っていまして…」
「それは残念。」
全く残念そうには見えない笑顔の「ヤマダ」様は何故今もこうしてここを訪れるのか、その目的が残念ながら私には分かりません。
ついでに、部屋の中の空気がどことなくヒンヤリと冷たく感じられる理由もよく分かりません。
「それでは、とくとご覧あれ。」
持ち前のミーハー根性も引っ込んでしまい、逃げるように部屋を出れば、背後から追い掛けてきたのは笑うような奇術師の前口上。
それを聞く度に、次にこの部屋へと入る時にはもう何もかも全てが「消え失せている」ような気がして、毎度嫌な意味でドキドキが止まりません。
怖いもの見たさで一瞬振り向いてみれば、閉じていく扉の隙間から「ヤマダ」様が、白兎坊ちゃんには見えないように私に向かって唇に人差し指を押し当て、「シーッ」とイタズラっぽく笑って見せたのでした。
舞台裏の開幕
(そして閉ざされてしまった扉を前にして、ただの使用人に一体何が出来るというのでしょう?)
(白兎坊ちゃん自身が一刻も早く諸々に気付くことを願っています。)
(…正直、それも無理そうな話ですが。)
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こっそり名探偵祭より。
企画へのご参加ありがとうございました!
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嘘つき、ロンリー。