宇宙の向こう側に行こうよ
——瀞霊廷通信の編集部へ、取材時不在だった朝緋の顔写真を持ち込めば程よい小遣いを稼げるんじゃないか。
昨夜眠りにつく前にふとそんな妙案を思いついたひよ里は、翌朝隊舎に顔を出すなり写真機を片手に標的を探し歩いていた。身内をダシにして金を稼ぐことについて、ひよ里の中に躊躇いはない。交渉相手の九番隊隊長、副隊長は旧知の仲である。上手く言いくるめられる自信しかないひよ里は、浮足立って笑顔を浮かべており、事情を知らない隊士達からは何事かと密かに恐れられていた。
……しかし。朝緋の霊圧を隊舎の門で感じて足を運ぶも、僅かに間に合わなかった。彼女は既にどこかへ任務にでも向かったようでその場に姿は無く、代わりにもうひとつの霊圧——喜助が佇んでいるだけだった。
彼はただ遠くを見つめている。その視線の先に何があるのかなど、問うまでも無い。彼の表情はいつもの飄々としている、ヘラヘラと張り付けた笑みではなく……眩しそうに目を細め、口角は僅かに上がっている。どこか誇らしげにも見えるその表情は——
——カシャ
「……オマエ、朝緋を見送る時だけええ顔しとるよな」
撮影のために構えていた写真機は、本来とは別の被写体に向けてシャッターが切られた。
ひよ里が歩み寄りながら声を掛ければ、喜助はアハハ、とまた普段のヘラヘラとした笑みに戻ってしまう。
「いっつもユル〜い顔ばっかしてヘラヘラしとるだけやん。それか、たまに真面目な顔したかと思えば、のめり込んで徹夜した覇気のない顔の二択やんけ」
「……ひよ里サンはわざわざボクのこと揶揄いに来たんスかぁ?」
喜助はやれやれ、と大袈裟に肩を竦める。だが、ひよ里はそれに構うことなく隣へ立ち、彼が見ていた方へ視線を向けた。……やがて、遠くに見えていた朝緋の姿が点となって消える。それを見送ってから、喜助の横顔を満足げに睨み上げる。
「ウチはええと思うで、オマエのその顔。普段の腑抜けとるツラよりよっぽどマシや」
「ヒドいなぁ。……ボクは別に、自由奔放なあの子にあえて発破を掛けてるだけっスよ。『やれるものならやってみろ』って」
「ハッ、そんで?」
続きを煽れば喜助は困ったように眉を下げるが、それで
おそらく喜助にも、ひよ里が本気でこの話を茶化すつもりがないことは伝わっているだろう。……やがて自身の中で折り合いをつけた喜助が、視線を前方の遠くの方へ戻して口を開いた。
「……あの子ならきっと、どんなこともやり遂げるでしょう。その先に待つ未来を思うと、多少は愉快な気持ちが湧いて来るんスよ。——ああ、ボクも負けてられないな、って」
「ぶはっ!! オマエ、部下に張り合いを求めてどないすんねん!!」
ひよ里は我慢しきれず吹き出して、声を出して大きく笑った。次第にツボにハマって笑いが止まらず、苦しそうに涙を目尻に浮かべている。しかしそれでも、息継ぎの合間に「まあでも、ウチも分かるわ」「さすが『お悩み受付係』やな!」と同意する意見を述べれば、喜助の口角はまた僅かに上がった。
——そうしてしばらく語られた朝緋についての雑談は、穏やかな日差しが照らす青空の中へと吸い込まれていった。この時ひよ里が撮影した喜助の横顔は、こっそり印刷されて朝緋の私物の中へと隠されるのだが……——それが見つかるのは、まだまだ先の話となる。
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