零パロ?


彼女は名の高い写真家であった。カメラを手に取り歴史建造物を写真に遺すために彼らが生きて残した証を次々へと撮っていく使命感に囚われている。何故かはよく分からない、自分でも分からなかった。何かに自分自身の意志を操作されているようなそんな感覚さえも覚えてしまう。

「ここの写真を撮らせて欲しいなんて酔狂なお方もいたものだ。鍵は渡しておきます。好きな様に撮ってください」

第七師団の本部である建物の所有者である老人が目を細めて私を見ると無愛想な顔でそう言って私の手に鍵を渡される

「しかし、これも運命ですかねぇ。まさか貴方がねぇ」

意味深な言葉を発したかと思うと老人は建物の中へと進んでいき、どう意味ですかと尋ねろうとした頃にはもう老人の存在は奥へ隠れてしまっていた。

「…運命」

老人に言われた言葉を口に出して言うと何故かしっくりとその言葉が馴染んでいく、もしかしたら写真を撮らなければ行けないと思う意思もその運命に囚われているのかもしれないと納得しそうになった

「そんな事はどうでもいい日が暮れるまでに彼等の生きていた証を撮らなければ」

勝手に口が動きふと考える。
ー彼等って一体?

渡された鍵を使い南京錠を開けて中へと入る。人が出入りしていないのかホコリが舞い散り、息を吸う事に身体の中が汚れてしまうかのような錯覚さえも覚えて息を少し止めてマスクを付ける。持ってきておいて良かったと安堵をし床を踏みながら朽ちていないかを確認し、まだ朽ちていないと分かるとしっかりとした足並みで歩いていく。どこを撮ればいいか何故か分かっていた。木製のカビが生えた匂いがマスクをしていても臭ったがそれは無視をし食堂らしきもの、鍛錬所、恐らく使われていたであろう三八式歩兵銃などを写していく。すると頭が痛み、目線の先にモザイクが掛かる

「うっ、また頭痛?」

彼女は北海道の歴史建造物を撮る際よく頭痛が起きてしまう。何かを思い出させようとしているかのようなそんな感じさえも覚えた。ずるずると座り込み壁に全体重を預けるとカメラを抱き締めて耐える。

どれくらいの時間は経っただろうか。

太陽の光が注ぎ建物全体を照らしていたものがなくなり辺りは暗くなっていて昔の建造物の雰囲気と混ざり合い何処か寂しい空気を出していた。

残りの写真は明日に回し今日は帰った方がいいかもしれない。

明日は頭痛薬を持ってこなければと腰を上げて立ち上がると目の前にモヤのようなものが見え、写真を撮る習性が体に身に付いていたためかカメラを構えレンズ越しにそれを見ると軍服を着た男がこちらを見つめている。息を呑みもう一度裸眼でそれを見るが見えないレンズ越しじゃないと何故か見えないようだ。顔は見えなかった軍帽を深く被りじっと見つめているシャッターを切りそれをフィルムへ収めると消えていなくなってしまった。



家へ戻り窓もなく完全な密室の部屋、赤いランプが照らしている暗室へ向かい写真を現像するためにフィルムを取り現像作業をしていく、デジカメだとそんな作業はいらないのだが私はモノクロフィルム特有の写真の映りが歴史建造物との風合いも合うという理由と自分で撮影して自分で現像して自分でプリントし作品を作り上げる、その工程こそが私という写真家のポリシーであったために未だにデジタルには手を出していない。

一つ一つ被写体が浮かび上がり作業をしながら自分の目で出来合いを確認していくと、その写真が出てきた。

軍服を着た男の写真だ。

あの時は混乱して確認も出来なかったが今見ると第七師団が着ていた軍服そのもので息を呑んだ。もしかしたら白昼夢かもしれないと思っていたからかもしれない。あれは現実ではない夢だと思い込む事によって自分自身を防衛していた。だが夢ではなかった。目の前にその証拠が眼前にある。崩れ落ちそうになる身体を何とか作業台の上に手を置き支え今日の出来事を、思考を纏めあげる。

管理人に鍵を借りて、建物の中に入り、写真を撮り、軍服の男の写真を撮った、現在は自宅の暗室で現像をし男の写真が現実だと知った。

ここまではいい、ならどうする。

ふと、知人である写真家が

「昔の建造物ばっか撮ってるって?取り憑かれるなよ」

と言って渡された物があったことに気付いた。
確かあれは霊能力者とか胡散臭いことを言っていて私が顰めた顔をすると

「大丈夫、明日子さんは俺の信頼出来る女性だよ」

杉元佐一はそう言って私に無理やり渡したのであった。

「まさか、私がそんな霊能力者とかに頼る事になるなんて思わなかった」

ははと笑い首を振ると念の為だ連絡先を書いた紙は手帳に挟んである事を思い出しながら内ポケットに入れた手帳を取りだしスマホを取りだすと、電話番号を入力していく
しかし

「…なんで、かからないの?」

そんな、しっかりと回線は繋がっているのに何度かけても繋がりもしない。念の為に固定電話を使い掛けてみるがそちらも繋がらない。背中に悪寒が走った。何が嫌な事が起きると訴えられているかのように思えた

「外へ出て公衆電話で…っ!」

固定電話に向けていた身体を玄関へと向かわせるために振り向くとあの軍服を着た男がそこに居た。軍帽を深く被り顔は見えない、もしかしたら顔などないかもしれない、でもそこにいた

「あっ、あ、」

後ろに下がり手当たり次第に何か武器になる物を手当たり次第に探すがない、物が散乱し次々に床へ落ちていく物達が女の代わりに悲鳴をあげていくかのように物音を立てて落ちていった
軍服を着た何かが近付いてくる
走って逃げようと思うが身体が金縛りにあったかのように動けなかった
悲鳴さえも恐怖で出ない

『僕達を助けてください』

タスケテ?助けてと言ったか?この男はこの状況で私に願うのかと怒りさえも覚えたが悲痛そうな声に何も言えずにいると視界が暗闇へ落ちていった

『ーーーー、ごめんね』

意識が朦朧とする中、私の名前を口に出し頬になにか触れた気がした