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庄司慎吾の目がきらりと光る。彼の視線の先には、秋名の面々と賑やかに話す彼女の姿。秋名の連中には少々迷惑をかけてしまった手前、拓海とのバトル以降、慎吾は彼らに対しデカい顔をしなくなった。今じゃ同郷の走り屋として、秋名と妙義は一種同盟のような感覚でいる。その秋名の面々に割って入っていくことに少々気が引けたのだが、タイミングよく彼女が彼らと離れ、何か探し物をしているようだった。慎吾の目が細くなったのは、そのときだ。
(高橋兄弟のタカラモノ、試してみよーじゃん)
彼女、高橋あきらと初めて会ったのは、FCとエボV戦の赤城だった。いや、会ったというより見た、のほうが正しいか。会話は一切していないが、隣にいた毅が何やらそわそわハラハラと彼女を見ていたので、これはもしやと思っていた。女遊び止めたら?と碓氷の幼馴染みに言われようが、毅が惹かれた彼女は自分になびいてくれるのだろうかと、反応をとにかく見てみたかった。その毅はというと、高橋啓介と話しているようだ。大方、くだらねェことで軽い言い合いにでもなっているのだろう。
「スプライト、もらってくぜー」
「はーい」
周辺をきょろきょろとしていた彼女に声をかける。最初は、当たり障りのないように。氷を入れたコップに、透明なサイダーが泡立つ。どうぞと渡された小さな手に、重ねるように自分の手を添えた。わざとらしく。
「冷てェ手してんな、お姉さん」
「え、あ、ごめんなさい。ずっと氷触ってたから」
「いんや、気持ちいいってコト。ちょっとかして」
「えっ!」
受け取ったコップをテーブルに置いて、彼女の右手を取った。指のかたちを見るように、一本ずつ触れる。
「あの…」
「ふーん、てっきり爪とか汚れてんのかと思ったけど。めっちゃキレイじゃん」
「えっと、その」
「メカニックなんでしょ、お姉さん。オレ、庄司信吾。妙義でシビック乗ってんだ。ヨロシク」
兄弟ほどではないにしろ、自分より背のある慎吾を見上げるあきらが少したじろいだ。名乗った慎吾が、触れているあきらの手を口元に寄せたからだ。
「っ、なにを…っ」
「慎吾って呼んでよ。お姉さんのこと、あきらさんて呼んでいい?」
「て、離して…!」
「呼んでくんなきゃ離さない」
「……慎吾、くんっ」
「くん、いらないけど。まいっか。イジワルしてごめんねあきらさん」
「まったくもう…怒るよ?」
パラソルの下のドリンクコーナー。日陰になっているから顔の色はハッキリとわからないけれど、未だ触れる手が温くなっているというだけで、慎吾には充分だった。威嚇するような目で、困ったようにこちらを見上げるあきらに、心がくすぐられる。本音は、照れて赤みを帯びた肌も見てみたいのだが。
「さっき何か探してたんじゃねーの?」
「うん、ヘアゴム。暑くなってきたから、髪しばりたくて」
手首につけてたはずが見当たらないのと、もう一度あたりを見渡す。
「オレのやるよ。たまにしか使わねェし」
「え、でも」
「そん代わり、見つかったらあきらさんのオレにちょうだい。交換しよーぜ」
「私の、キラキラのチャーム付いてるんだけど」
「いいじゃん、かわいくて」
「…ふふっ、慎吾くんて、おもしろいね」
運転していて煩わしいときにしか使っていない、黒のヘアゴムをあきらに渡す。掌に乗ったシンプルなただのヘアゴムが、あきらの柔らかな髪へ結ばれる。
彼女の一部を、自分のモノで縛るという行為。ありがとうと無垢な笑顔をくれた彼女には、目の前の男に穢れた下心があるなどと、知らぬのだろうな。
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