【SZY.】


11:15


朝から準備していたことが功を成し、大人数が集まったBBQも順調に進んでいる。大体の流れが掴んできたところで、「代わるんで休んでいて下さい」と元レッドサンズのメンバーたちに言われたので甘えることにした。というのも、スタート時に簡単に挨拶をしただけでまだ言葉を交わしていない連中と話がしたかったからだ。氷をたっぷりのコップにアイスティーを入れ、陽射しまばゆい芝生へと向かう。着丈が少し長めのTシャツにミニスカートを合わせ、足元は日焼け防止のレギンスにハイカットスニーカー。芝生へ駆け出したとき、ひとつに結わえた髪がふわりと風に乗る。


(そういや…来たの久々かも…)


芝生広場の一角に建つ立派なログハウス。父方の祖父の持ち物で、小さい頃の夏は毎年家族で訪れていた。自分たちが大きくなってめっきり来なくなった今も、祖父の知り合いが管理してくれているおかげで、ログハウスもこの芝生もとても綺麗だ。あとで兄弟と一緒に顔を出してお礼を言いに行こう。


「あきらー!ひっさしぶりー!!」

「わあああ沙雪ちゃんっ!びっくりしたー!!」


突然後ろにかかる荷重。持っていたアイスティーが少しTシャツにかかってしまったが、久し振りに会った彼女らの顔を見た途端、嬉しくて気にならなくなった。気になることと言えば、背中に触れる豊満なバストくらいか。


「沙雪ちゃん真子ちゃん!会えてうれしいよー!元気だったー?」

「元気元気!あきらは?ほっそいんだから夏バテとかしてない?」

「してないしてない!ごめんね、全然碓氷に行ってなくて」

「あきらはシーズン真っ只中だもの、仕方ないわよ」

「真子ちゃん…!会いたかったよー!」


ぎゅう、っと抱きついてきたあきらを、あらあらとにこやかに撫でる真子。自分より歳下の碓氷ペアだが、外見だけではどうあってもあきらが歳上には見えない。以前は『あきらさん』と呼んでいたふたりに『さんはいらないよ』とあきら自身で咎めてからは、親しみを込めてあきらを名前で呼んでいるから尚更そう見えてしまう。

あきらのチーム監督が走り屋時代に頻繁に通っていた碓氷峠。自分も走ってみたくなり訪れたときに出会った彼女たちとは『走り屋女子』としてすぐに意気投合。以来、とても良い友人となった。車のことはもとより、女の子同士だから出来ることや、相談したいこと、買い物も一緒に行ったり、恋の話もたくさんした。高崎と軽井沢とはいささか遠くはあれど、友人に会い行くためなら何てことない距離だ。真子の言うとおり、今はGTシーズン真っ最中。なかなか彼女らに会えず残念な思いをしていたところに、啓介の計らいである。嬉しくないわけがない。


「ふーん、あの時は夜だったから暗くてあんまり顔見えてなかったけど、神奈川の連中って結構イイじゃない」
 
「出た出た、沙雪ちゃんの審美眼」


それぞれで楽しんでいる連中をぐるり見渡し、沙雪のチェックが入る。あーでもないこーでもないと個人評価をする中で「あれはパスかな」と言った相手がいたが、その彼には悪いのでここでは言わないでおこう。


「あきらって神奈川勢と仲良いんでしょ?っていうかむしろアッチ側?」

「箱根戦のときは複雑だったなぁ…。そりゃお兄ちゃんたちに勝ってほしいけど、相手は私の走り仲間だし」

「優先なんてつけられないのよね、あきらの立場じゃ」

「とにかく無事に、ってことだけ想ってた、かな。霧が出たときはもう、ハラハラしてた」


広場備付のテーブルセットに三人で座り、揚げたてのフライドポテトをつまみながら、最終戦を振り返る。すべてのバトルを観戦したわけではないが、記憶に新しい熱戦を思い返すと再び胸がドキドキと高鳴ってくる。


「で、誰が好みなの」

「は?」

「こんだけ男がいるのよ?ちょっといいなって思うヤツくらいいるでしょうあきらにも」

「え、ええ?」

「真子も真子だし、あきらもあきらよ。アンタたちかわいいのになんでカレシいないのかしらねー。池谷のことは吹っ切れたんでしょ、新しい人いないの?真子」

「わ、私に矛先を向けないでよ沙雪!」


こうなると沙雪は止まらない。私に訊くより沙雪の恋路も聞きたいなとあきらは考えていたのだが、その考えている仕草がどうやら沙雪には『気になる人を思い浮かべている』ように見えたらしく、そのたわわなバストをずいっとこちらに寄せてきた。


「『お兄ちゃんと啓ちゃんがいちばん』なんて答えはいらないからね」

「な、なんでそうなるの!」

「あきらってば年上にモテそうなのよねー、甘え上手っていうの?素直だから可愛がってあげたくなるタイプ。ほら、『好きな人はお兄ちゃんみたいな人』とかよく言うじゃない。年上…、あ、あのオレンジの人とか?」

「(えええ!まさかの大宮さんー!?)」

「それかあのスープラの人」

「(ないないない!皆川さんは絶ッッ対にない!)」

「あきら…眉間にすごいシワ寄ってるわよ…」





(あそこのテーブル、お近付きになりたいぜ)

(行けばいいじゃないッスか池谷先輩)

(三人揃うとまたすげェなァ…。ナイスバディの沙雪ちゃんに美人の真子ちゃん、かわいいあきらさん。オレ選べねェよ)

(選ぶとかまた贅沢な話ですね健二先輩)


(アニキ、アネキどこ行ったか知らね?)

(木陰のテーブルで碓氷の彼女たちと女子会中だ。邪魔してやるなよ)

(はいよー)


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