夢駆け作者、探偵役と出会う(2)

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 怪盗と探偵が揃ってしまった。ミドリは内心複雑である。少しの高揚感、ワクワク感はあるが不安もある。まぁ、小説家という手前、警察に呼ばれたのではなく取材に来たという可能性は十分にあるが。いや、編集者にチケットを渡されたとなれば取材の線は高い。取材となれば数パターン浮かぶが、どれに当てはまるかはミドリはわからない。ので、ミドリは素直に聞くとする。記者かもしれないというていで話が進んでいるなら聞きやすいだろう。

「環先生はどの取材に?」
「どの、とは?」
「リゾートホテルの取材、人工島の取材、展示されてる刀の取材」

 奥からリゾートホテル殺人事件、人工島の悲劇、刀の惨劇再び、とミドリは頭の中で勝手に作品を思い浮かべる。環は環で、同じようにリゾートホテルの惨劇、橋が折れてクローズドサークル人工島、刀を奪って殺されるミステリーを思い浮かべて「それもいいですね」と頷いた。

「……ではやはり、件の怪盗の取材ですか?」

 ミドリの問いかけに環に代わって答えたのは環のとなりに座る少年――飯塚サキである。

「怪盗ではなく、泥棒です! 劇場型犯罪を好む泥棒です!」

 ケイマの地雷を踏んだな。ミドリがケイマをみれば、ケイマがすかさず「夢も希望も浪漫もないガキだなぁ」と嫌味を込めて言葉を吐いた。コウヘイは苦い顔をしている。一度同じような発言をした時に怪盗の美学や歴史の説明で丸一日の休みを潰したのを思い出したのだろう。サキはキッとケイマを睨んだ。リョウタが首を傾げる。

「嫌いなの? 珍しいね」
「おっと誤解ですよ、それ。サキは怪盗が現れた次の日にはニュースを持ってやれどこの何をぬすんだ、やれ盗まれた人間はどんな人だったと一々私に報告してくる」
「なんだ、好きなんだねー」

 ハルの一言に、サキはフルリと体を震わせた。

「……読み物としては!! 読み物としては!! 怪盗は!! 素敵だと思います!! 先生に書いて欲しいくらいですとも!! でも、ダメです! 犯罪です! 犯罪者は捕まえなければなりません!! その為の先生です!」

 車内にサキの声が響く。中年の乗客が一人やってきて、捲し立てるような剣幕で口を開いた。

「うるさいぞ! ガキども!!」

 コウヘイが鬱陶しそうに、片手を上げる。ハルが立ち上がると男性の前に立って頭を下げた。

「申し訳ございません。こちらから注意を促します」
「お前らみたいなガキが乗るような場所じゃないんだぞ!!」
「騒いでしまったのはこちらに非があるので謝りましょう。申し訳ございません」
「謝ってすむとおもってるのか!」

 酔っ払いである。他の乗客も心配そうにハルを見る。サキとリョータも顔を青くしてハルを見上げた。環は他の四人が平然としていることに不思議そうにする。ハルはただ真っ直ぐに相手を見たあと、英語でコウヘイ達をみながら口を開いた。

「この人、すごい面倒臭いからぶっ飛ばしてもいい?」
「やめろ、理由がどうであれ先に手を出すとこっちが悪くなる」
「つーかただの酔っ払いだろ。日頃の鬱憤を俺たちにぶつけたいだけ。最初の段階で自分の思い通りになってないから余計だろ」
「コウヘイくんが真顔で、『申し訳ありません、ミスター。しかし、あなたも少々騒がしいようだ』て囁いたら大人と勘違いして解決するに一票」
「俺も一票」
「うーん、こっちとしてはこういう人相手にあんまりコウヘイに出てほしくないなー。もうちょっと頑張る」

 ハルの言葉にミドリはため息をついて立ち上がるとそのままハルと乗客の間に割り込んだ。

「ごめんなさい、おじさん、こんな素敵な電車にテンションあがってしまって。そうですよね、こういう列車に乗る時は静かにしないといけませんよね。ありがとうございます、一つ勉強になりました」

 ミドリはニコニコと笑いながら乗客をみる。ハルも後ろから「ありがとうございました」と笑みをむけた。わかればいい、と居心地悪そうに引き下がった乗客を見送ってミドリとハルは席に戻る。

「す、すいません、声を張り上げてしまったばかりに……」
「ありがとうね、ハルくんちゃん、先に矢面立ってくれて」
「慣れてるから気にしてないよー。そっかー、こういうときってお礼を言えばいいのかー。新しいこと学んだよー」

 ハルはひらひら手を振って気にしていないと告げる。環は5人をみて、口元に笑みを浮かべた。

「面白いなぁ、君たち」

 その一言に、英語がわかる乗客はそっと心の中で頷いた。

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