夢駆け作者、圧迫面接(2回目)/ 主人公、乗り込む

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 いやまさか、ははは。
 ミドリは遠い目をしながら苦笑いを浮かべた。目の前にはフランス料理のオードブルが並び、対面の席には副支配人を名乗った男がいる。隣に座るリョータも、ハルも顔を少ししかめていた。
 リョータはともかく、自分よりハルの方が価値があるにもかかわらず、自分がいかに価値があると言うふうに男は告げたが、そんな事はないと思うのだ。
 存在しない人間は何をしてもバレない。それは一理ある。確かに存在するのだが、存在する書面がないために捕まえることが多数の段階を踏まなければ無理だ。そもそも、存在する証明がないのだから、捜査をしても何処の誰かわからない。
 しかし、そのかわり、何をされても訴えることができず、医者にも多額のお金を払わなければ診療を受けることができない。グレーゾーンを通り越して真っ黒な人達が持っていて損はない人物。そんな価値である。

「そんなまさか、昔の創作みたいな」

 ミドリはそう呟いて、あぁこれは確か昔自分が作った話の世界だったと思い出した。
 非日常が日常になりつつある。ミドリの中で異世界が異世界でなく、空想が現実に、現実が空想に変わりかけている。

「何、君にとって悪い話ではない筈だ」

 副支配人である男はニコリと笑う。

「学校にも通わせてあげよう。友達と同じね。衣食住は保証しよう。ただ、ここで働くだけだ。給料もだすし、欲しいものはなんでもあげよう」

 美味しい話には裏があるとはよく言う話である。リョータが「そもそもあんなことをしといて、そんな話鵜呑みにできるわけないだろ」とぼやいたが、副支配人は笑顔を崩さずに「あんなこと? なんのことかな?」と尋ねた。
 ミドリは少し真面目な顔で尋ねる。

「給料ってどれくらいですか? ボーナスはあり? 週休は完全二日制? 夏季冬季休暇は?」

 中学生あるまじきことをたずねてしまった。ミドリの質問に、副支配人は一瞬驚いた顔をしたがすぐに「大人のような物言いをする子だね」とまた笑顔を浮かべた。うん、どうみても胡散臭い。

「欲しいものってなんでもくれるの?」
「あぁ、なんでも」
「そもそも働く『ここ』ってどこ」

 その言葉に彼は口を開く。

「その前に、君には学んでもらうことがたくさんある」

 副支配人の返答にミドリは少し眉間にシワをよせる。話の筋がめちゃくちゃだ。これは別に子供でもわかる。ワザと話を逸らした。

「お断りしますって言ったらどうなるんですか?」

 その言葉に初めて副支配人の顔から笑顔が消えた。無表情というのはこう言うことを言うのか、とミドリは思う。

「存在しない君に与えられているのはイエスだけだよ」


「15分きっかりだ。それにしても意外な人選だね」

 地下室の廊下である。環はそう言ってやってきたケイマをみた。サキが二人と共にいる男を見て顔を顰める。さっきの! と指差したサキに男性はいささか嫌そうにサキを見下ろしたが。支配人である梓だけが首を傾げている。

「さて、おっさん、約束通り俺たちを連れてって欲しいんだけど」
「あの二人はともかく、あの女は?」
「このホテルの支配人だそうだ」

 コウヘイの言葉に、男は疑わしそうに梓をみた。

「こいつが支配人だと? あいつじゃないのか?」
「あいつ?」
「富岡という男だ」

 男はそう告げる。梓は困ったように笑う。

「富岡さんは副支配人です。父親の代からずっと。間違われてしまうのも仕方ないでしょう。私が指名されるまでは彼がこのホテルの支配人候補で有力でしたから」
「ふぅん、アンタはしらないのか」
「何をでしょうか?」
「この先の部屋だよ」

 そう言って男は何もない壁をみる。梓は困惑たっぷりに男をみた。何もない壁だ。廊下の突き当たりというわけではない。廊下の途中のなんの変哲もない壁だ。

「何かあるのでしょうか?」
「螺旋階段で方向がおかしくなる。招待されるやつはアンタ達みたいに最初は何にもわからん」

 ケイマはその壁を触る。材質は同じ、に、見せかけているが違う。壁紙の切れ目がわからないようにされているが、ノックすれば響くということはその先は恐らく空白である。

「壁に仕掛けがないってことは床か?」
「床に這いつくばっても目立つだろうが」

 男はそう言って足元の装飾を靴先で突く。その瞬間、小さく歯車が回るような音がして壁の一部がずれた。その先には通路が続いている。奥につけられた監視カメラは出入り口の方向をむいている。ケイマはそれを見て眉間にシワをよせた。


 圧迫面接とはこのことだろう。ミドリはそう思いながらもニコリと笑う。無表情はいささか怖くはあるが、それを見せてしまえば相手はそこを突いてくるだろう。だから、ミドリは笑って副支配人である富岡をみた。
 耳元から雑音が聞こえる。恐らくケイマが通信を試みているのかもしれない。だから、ミドリは引き伸ばすことなく首を左右に振った。

「嫌です」
「君は置かれている立場がわかっていない」
「置かれている立場とは」
「君を売り払ってもいいんだぞ」

 そう言った富岡にミドリはまた口を開く。

「売り払っても連れ戻してくれるだろう人達がいるので」

 なんとなくだ。なんとなくだけれど、ケイマは連れ戻してくれるのだろうとミドリは思っている。だって、昔にミドリが書いた話ではそうであったし、結局は前だってさらわれた友人を連れ戻している。

「君を殺したっていい。君の臓器だけを売り払ってもいい」

 富岡は告げる。ミドリはその言葉に笑顔を崩さない。そのわりには殺すような素振りをみせない。恐らく富岡という男よりも、そばにいるハルの方が恐ろしいのだろう。ハルが静かにナイフを袖に隠す。ミドリはその手を握って止めたが。
 沈黙。静かなその場所であったが、足音が聴こえてくる。急ぐような足音だ。ノックの音、そして入ってきたバニーガールのような服を着た女性が富岡を呼ぶ。

「……どうした?」
「明月家の男が招待客以外を連れてきました」
「追い出せ」
「それが、」
「何かあるのか」
「支配人が一緒です」

 女性の言葉に富岡は目を見開いた。驚き、焦り、そんなものを押し込めてから、もう一度考える。ミドリはその様子をじっとみる。驚きはわかる。くるとは思っていなかったのだろう。焦りは知られていなかったからかもしれない。しかし、一瞬違う感情が混ざった気がするのだ。
 富岡は口元に笑みを浮かべて、口を開く。
 ――ならば、丁重にもてなせ、と。

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