主人公、酔いどれの酔いを醒ます

■ ■ ■


「ちょーっと、おっさん、話いいか?」

 人気のない通路でケイマはそう言って男性を引き止める。草臥れたようなスーツを着た男性はケイマをみて、お前はあの電車の、と小さくぼやいた。ケイマはその言葉に頷いた。
 電車で突っかかってきた男性である。相変わらず酒臭い。また飲んだのだろう。その時にワインをこぼしたのか、スーツの裾にワインが付着している。逃げ道を防ぐようにコウヘイが男性の後ろに立った。

「お前達に話すことなど」
「なぁ、おっさん、取り返したいものあるんだろ?」

 鎌掛けである。ケイマの言葉に彼は目を少し見開いた。

「何を言って」
「俺、困ってんだよね。俺たち名義で予告状を誰かさんが出したみたいでさ。アンタ、俺たちの名前に縋ってまで刀を取り返したいんだろ?」

 ケイマは不敵に笑った。男は鼻で笑った。

「まさか、お前が怪盗だと? お前みたいな子供が?」
「残念ながら姿も声もどうにでもなるんだよな」
 ――こういう風に。

 ケイマの声が男と同じ声になる。コウヘイは後ろから珍しいものを見るように目を瞬いた。自分達と同じように機械で声を変えているのかと思えば、ケイマはそうではないらしい。男はケイマの声を聞いてヒュッと息を吸った。

「取り引きしようぜ」
「……取り引きだと?」
「アンタの刀を取り返してやる。その代わり、アンタはこのホテルに隠された場所を知ってる筈だ」

 その言葉に男は目を泳がせた。迷って、迷って、またケイマを見る。

「本当に取り返せるのか?」
「そっちが約束を守ってくれるならな。アンタが出した予告状通りに盗んでやる」
「……だが、怪盗があの賭博場になんのようだ。賭け事ではあるまい」

 ビンゴである。ケイマは両手を上げる。そうして、いつもの声に戻す。

「この外見の奴のトモダチが多分そこに連れて行かれた」
「なんだと? 子供が連れていかれるような場所ではないだろう」
「まともなことを言うな。突っかかっていた奴には見えない」

 コウヘイがおちゃらけたように告げると、男は眉間にシワを寄せて口を開く。

「お前達怪盗のせいで酔いが覚めた」
「おかげで、だろうが、おっさん。酒に逃げてんじゃねぇよ」

 ケイマはそう言いながら男性の背中を叩く。そしてそのまま地下室に誘導するように足を進めた。

TED!UM