蝉の声が煩くなってきた真夏日。
日本独特の蒸し暑い湿気が肌に纏わりつく。政府から支給された扇風機が無ければ今頃熱中症で倒れていただろう。

刀剣たちも例外なく、内番を終えた皆は扇風機の恩恵を受けに自室へと戻っている。こんな暑い中ではしゃぎ回る奴は一人もいなかった。



「クニ、お前暑くないの?」


「う、写しの俺には…これがお似合い…さ…」


「めっちゃバテてるよね?せめてジャージ脱げ、見てるだけで暑いから」


「何を…期待して…いる…や…ら……」


「野郎の裸に何も期待してないから早く脱げ」



暑さで既に頭イカれてるな…。この暑いのに厚着して布まで被ってたんじゃ自殺行為だ。人間なら間違いなく死んでるだろう。

上だけでも脱がすか…。
…いや、服脱いだとしても布は被るんだろうな…。
それじゃ変態だからダメか。



「主君!今良いですか?」


「ん?どうした秋田」



今日、秋田は畑当番だった筈だ。終わって風呂にでも入ってきたんだろう、髪から水滴を滴らせて随分とさっぱりした様子だ。



「翡翠さんがいらっしゃいましたよ。主君を呼んでいます」


「翡翠?今日何かあったかな…」


「近侍の鯰尾兄さん曰く、クロさんの本丸に向かうんだとか」


「クロちゃんとこに?翡翠が?」



なんでわざわざ?

翡翠はあんなアクティブそうな見た目しといてかなりインドアな奴だ。生け花とか園芸が趣味で、特別部隊に入る前は花を摘みに庭に出るくらいしかしなかった。

その翡翠が誰かの本丸に向かうなんて…、俺のとこにも滅多に来ないのに。


とりあえず会いに行くかと腰を上げ、秋田を連れて玄関に向かう。因みにクニは俺の部屋で溶けている。放っておこう。

玄関では額に汗を滲ませた翡翠とその近侍の鯰尾藤四郎が麦茶を飲んで待っていた。



「あ、瑪瑙さんこんにちはー」


「来たな」


「来たよ。どうした翡翠、この暑い中外出なんて珍しい」


「俺だって好きで出てきたんじゃねぇよ。クロネコにヘルプ頼まれた」


「ヘルプ?何の?」


「はぁ…、瑠璃嬢」


「ああ!」



納得。

つまり瑠璃がクロちゃんの本丸に来てて何かあったんだろう。瑠璃の暴走を容赦なく止められる…いや軽減させられるって言うべきか?とにかく話し合える程度にまで抑えられるのはパートナーの翡翠だけだ。だからクロちゃんは翡翠にSOSを出したんだろう。

…ん?あれ、じゃあなんでここに?



「道連れ」


「あー、はいはい」



そりゃそうだよな。翡翠が女の子の本丸に一人で行く筈が無いし、クロちゃんとパートナー関係にある俺を連れてくのは当然か。

それに、ただでさえ翡翠は瑠璃との任務で普段から赤疲労だし。労りのつもりでついていくか。部屋からクニ拾ってこよう。



「しょうがないなぁ翡翠は」


「うるせぇ、さっさと行くぞ」


「はいはい」


 

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