やっと落ち着いた俺たちは瑠璃が静まったことを察知したらしいクロちゃん本丸の刀剣たちにお茶を出してもらい、漸く一息吐くことができた。
シロちゃんは疲れたのだろう、クロちゃんにも促されて大和守くんと共に部屋に戻っていった。最後まで渋ってたけどね。身体の方が心配だから我慢してね。
「大丈夫か大将?すまねぇ、俺がついていながら…」
「薬研は悪くありません。連絡してくれて助かりました」
「悪かったなクロネコ。まさかあれで瑠璃嬢が剥がれねぇとは…」
「大丈夫ですよ、翡翠さん。瑪瑙さんも、こんなくだらないことでお呼びしてすみません」
「くだらないって何よ!!」
「黙れ馬鹿瑠璃、死ぬかと思った」
「むぅ、大袈裟に言わないでよね」
「いや、大袈裟じゃないからね?」
クロちゃんの首、もう少しで本当に絞まっちゃうとこだったからね?
男が六人掛かりって相当な力だからね?
わかってる?
一仕事終えたからか冷たい麦茶が凄く美味しく感じる。仕事って言って良いのかはわかんないけどね。
「それで、なんであんなことになってたの?海行きたいとか言ってたけど」
「そう!夏だし暑いし海で泳ごうと思ってクロを誘ってたの!」
「で、クロネコは断ってたのか?」
「いいえ。仕事終わるまで待てと言ったのですが瑠璃の海に行きたい欲が暴走してどんどん煩くなっていき、抑えようとしたシロと喧嘩に発展。エスカレートしそうだったので薬研に連絡を頼み、その間に仕事を終えたら案の定…」
「海に行きたい欲が爆発してさっきの状態ってわけか」
まったく、瑠璃は自分都合でしか動かないんだから。欲望というか本能そのものだよね。
「瑠璃、てめぇその自己中早く直せ」
「うぅ〜、だって海行きたいんだもの…」
「クロネコだって「嫌」とは言ってねぇだろうが。人の都合も考えろ」
「う…。はぁい…」
「すげぇ、あの瑠璃が大人しくなった」
「鎮まってからの翡翠の説教はちゃんと聞くからねぇ」
なんで翡翠なのかはわかんないけどね。二人の間で何かしらあったんだろうけど、それは俺の知るところではない。
瑠璃の自己中に振り回された人は大勢いるように思うだろう。だけど真黒先輩に聞いたところ、実際はその逆だったらしい。
鈴城という大きな家で甘やかされて何でも思い通りだったせいで、外の人間…例えば養成所での交友関係は最悪だったようだ。
直さなきゃいけないことは本人もわかっているらしいし、クロちゃんとシロちゃんもそれを理解している。だから無理に振り払わないで諭そうとしているみたいだけど、瑠璃の暴走が行き過ぎると彼女たちでもさっきまでのが限界のようだ。翡翠を呼んだのは正解だね。
俺?俺は道連れだからね。
パートナーさえ無事ならそれで良い。
「で、クロちゃんは海に行くのは賛成なの?」
「はい」
「へぇ、それも珍しいな。クロネコはそういうの苦手だと思ってたんだが」
「真夏日に出歩くのは苦手ですよ。
実は、私もシロも海に行ったことが無いもので…。一度くらい行ってみたいなぁと思ってはいたのです」
「!そっか」
そういうことね。
二人の生い立ちも悲惨なものだ。ご両親の死、虐待、人身売買…。行動範囲も限られていたわけだし海なんてどんなものかも想像でしかないのだろう。
クロちゃんが海に行くとなると気になるのはその身体にあった痣だけど…、どうやらその辺りの心配は無用ってことみたいだね。彼女は薬研くんと主従であり、眷属でもあり、恋人でもある。愛しそうに見つめる薬研くんの様子からして、きっと彼が何とかしてくれたのだろう。