「今は右目に傷がある筈なので、眼帯か…もしかしたら前髪でも伸ばしてると思うんですけど…」


「…残念ながら、私にはわからないです」


「そうですか…」



写真を返すと、彼女は眉を下げてそれを受けとる。
大事な写真なのか彼女は綺麗にファイリングしてバッグへと仕舞うと私に向き直った。



「ありがとうございました。お時間割いてしまってすみません」


「こちらこそ、お役に立てずすみません」


「いいえ。この辺りにはいないとわかっただけで十分です。では、私はこれで。ごきげんよう」



ごきげんようなんて言う人に会ったのは初めてだ。お嬢様の瑠璃様ですらそんな言葉言ったことあるのかどうか…。

会釈して私の横を擦れ違っていく…










「またね、審神者さん」










「っ!?」



慌てて振り向いた時には遅かった。
まるでそこには誰もいませんでしたというように、今さっきまで話していた彼女の姿が消えていた。



「主?……は?え…っ?……あ、主どういうこと!?さっきの人は!?」


「き、消えちゃった…よ?」


「嘘でしょ?気付かなかったよ」


「…俺もだ」



どうやら最後の言葉は私にしか聞こえていなかったようだ。

私の様子を見て振り返ったシロたちも彼女が忽然と姿を消したことに混乱し、キョロキョロと辺りを見回している。薬研に至っては正体を見破れなかったことが悔しかったのか拳を握り締め、眉間の皺を深くした。
…そんなに皺を作っては長谷部のようになってしまいますよ?

シロは兎も角、私に加えて刀剣男士が三人も揃っているのに誰も気付かなかったということは…



「相当な術者だったようですね、彼女」


「だな。俺たちも警戒してたってのに…。すまねぇ、大将」


「いいえ。全員無事に事を終えられたのは薬研たちが睨みを効かせてくれていたからです。ありがとうございました」



少なからず牽制にはなっていた筈だ。私も背中越しに彼らがあの人を見定めているのを感じていたし、特に薬研から溢れる神気は抑え目でありながらも鋭利だった。

まさか現世であのような術者からの接触があるとは…。



「私を審神者だと知っての行動…」


「え?そうだったの?」


「最後に「またね、審神者さん」って聞こえたから」


「…まずいんじゃねぇか、それ」



薬研の言うように、非常にまずい事態だ。相手は私の素性を知っていて、こちらは知らなかった。警戒していたのに見抜けなかった。もしもあの場で何か仕掛けられていれば無事じゃ済まなかっただろう。

それに、まずい事はもう一つある。

赤毛の男。
右目を隠している。
十年程前に中学生ということは、年齢的には現在二十三から五。

私の記憶の中で当て嵌まる人物が、"残念ながら"一人だけいる。
しかし、彼が写真の人物なのかは"わからない"。

彼と決まったわけではないけれど、言い様のない不安が拭えなかった。



「…………」


「クロ、なんか怖いし早く帰った方が良いんじゃ…?」


「…そうだね。加州、大和守」


「なに、主?」


「政府に着いたらシロを連れて先に本丸に帰ってください」


「わかったよ」


「クロはどうするの?」


「私は…」



この場合、相談は政府だけじゃない方が良いだろう。だからと言って、彼に直接聞くわけにもいくまい。
さて、どうしたものか。

政府への道程を歩きながらポケットから取り出した鏡に番号を書き、ある人との連絡を図った。










「…よぉ、どうしたクロネコ」

「ヘルプです」

「はあ?また瑠璃嬢か?」

「その節はお世話になりました。でも今回は別件で、それも瑠璃様以上に厄介かもしれません」

「あ?」

「巻き込まれてください。翡翠さん」


 

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