「あいつが昨日クロちゃんに接触……」



翡翠からいつになく深刻な連絡を受け、来客として迎え入れた。部屋に通して結界を張り、早々に告げられたのは冒頭の通り、驚きの報告だった。

ここ最近、嫌な予感はしていた。妙に過去を思い出すことも増えたし、右側の古傷が疼くこともある。そろそろ見つかる頃合いかと思ってはいたが、まさか俺じゃなくクロちゃんの方に行くとは……。



「それで、クロちゃんは?」


「無事だ。シロネコも一緒に現世で会ったらしいが、刀剣も三振連れてたし戦闘にはならなかったと」


「そっか、良かった……。でも、どうしてそれを翡翠に?」



というか、クロちゃんはあいつを知らない筈だ。あいつのことを知ってるのは翡翠と真黒先輩。もしかしたら間接的に瑠璃も知ってるだろうけど、クロちゃんにあいつの情報が渡るなんてことは有り得ない。

瑠璃か真黒先輩に聞いたか?

否、俺のプライベートなことまで話すほど二人は非常識な人間じゃないし、知ったところでクロちゃんには何の得も無いんだから政府からもわざわざそんな情報流すわけが無い。

なのに何故、クロちゃんはあいつが危険人物だとわかったんだ?
どうして彼女はパートナーの俺じゃなく翡翠に連絡を?

翡翠は一口お茶を含むと疑問符を浮かべる俺に説明した。



「何故クロネコがあいつを知ってるのか。知ったのはただの偶然だ。出会っちまったから存在を知ったわけだが、実際にあいつの詳しい情報はまだ何も知らねぇだろう」


「……俺と関係があることも?」


「問題はそこだ。じゃあ、あいつはクロネコに接触して何を話したか」


「人捜しで俺を訊ねられた……とか?」



俺の考えが当たりなら、クロちゃんに接触することで俺の居場所を突き止めようとしていたとかだと思う。

あいつがたまたま出会ったのがクロちゃんだったから訊ねられた。
それだけなら良いんだけど……。



「ああ。お前の予想通り、人捜しで声かけられたらしい。んで、与えられたヒントに当て嵌まる人物像が瑪瑙、お前だったんだそうだ」


「へぇ……。ヒントっていうのは?」


「男、赤毛、右目を隠してる」


「ははっ、モロ俺じゃん」


「約十年前に中学生で、当時の写真を見せられたそうだ」


「十年……ってことは十五歳か。やんちゃな頃じゃん」


「ああ。だからクロネコはお前だって確信が持てなかったんだと」


「成る程ね。だから翡翠に連絡して聞いたわけだ」



あの頃の俺ってことは顔に傷も作ってたし服もボロボロで目付きも悪くて、いかにも不良って見た目してたからなぁ。髪も長かったし。俺本人に「不良だったんですか?」とか確認するのは失礼だって考えるよね、クロちゃんは。



「それだけじゃねぇよ」


「ん?」


「真名、知られちまったぞクロネコに」


「! そう……」



名前……。人捜しなんだから、そりゃあいつが名指しで捜すのは当たり前か。クロちゃんには明かしてなかったもんなぁ俺の名前。彼女に知られたからって別に気にしないけど。



「……あれ、でも翡翠に真名のこと確認したの?」


「なわけねぇだろ。味方とはいえクロネコがそんな危ねぇことするかよ。
……あいつ、真名と一緒に渾名も言ってたらしくてな。クロネコからは「"ユウくん"って知ってるか」って確認された」


「あー、そっちね」



クロちゃんは、俺の渾名なら翡翠も知ってるだろうと考えたんだね。翡翠もそれで確信したんだろう。だって、俺をその渾名で呼ぶのはあいつしかいないんだから。



「それから、クロネコが審神者だってことあいつに見破られてたとさ。去り際に言われたそうだが、気付いた時には既に逃げられていたらしい。審神者と刀剣三振もいて失態だったとクロネコは言ってたが……」


「失態なもんか。戦闘にならなかっただけ十分マシだよ」



況してやシロちゃんもいる状況で皆無傷で済んでるんだ。運が良かったのもあるだろうが、あいつが"手を出せなかった"のはクロちゃんの実力があったからこその結果だ。

特にクロちゃんとシロちゃんは、あいつが嫌いなタイプの子だからね。もしも戦闘になっていたらと思うと恐ろしい。



「謝んないとな……、巻き込んだこと」


「だな。クロネコが先に俺に連絡寄越したのは確認の為でもあるが、あいつをお前のとこに辿り着かせねぇ為でもある」



俺の居場所を探らせない為に翡翠に連絡したってわけか。出会った直後に俺に連絡すれば、それだけで危険が及ぶだろうと。

そこまで気を遣わなくても良いのに…。なんて、そう思いながらもちょっとだけ嬉しく思う自分がいた。



「とりあえず、この件の情報は伝えたからクロネコに一報入れとけ。どこまで話すかはお前が決めろ」


「りょーかい」


「それと、ちゃんと忠告しとけよ? 瑠璃孃はまだ大丈夫だろうが、クロネコとシロネコは…」


「わかってるって」


「……じゃ、俺は帰る。……気ぃ付けろよ」


「うん。サンキューな、翡翠」



ぶっきらぼうな案じの言葉を最後に、翡翠は結界を解くと廊下で待っていた近侍、鯰尾くんを連れて帰っていった。

聞き耳立ててたね鯰尾くん。結界で聞こえなかっただろうけど、帰ったら翡翠に怒られるんだろうな。俺たちが時間をかけて真面目な話をするなんて滅多に無いし、そりゃ気にならない方がおかしいだろう。鯰尾くんには少しだけ申し訳なく思った。


 

ALICE+