それは、いつもと変わらぬ日課をこなしていたある日のこと。

昼食を終えて部屋でのんびりと寛いでいた時に、この時間帯にしては珍しい人物から連絡が来た。



真「今日の十五時、私の執務室に来てほしい」



私とシロの義兄、真黒さんから直々のお呼び出しだった。

彼がこうして連絡を寄越すこと自体は珍しくも何ともない。口頭で伝えるには膨大な情報量だった時や、私に限らず数人纏めて説明を行う時には必ずお呼びがかかる。



薬「今回は何を頼まれるんだろうな」



約束の時間が迫り政府に向かう途中、近侍の薬研と共に今回呼び出された理由について考える。



『頼まれ事と決まったわけではありませんよ?』


薬「いいや。真黒の旦那のことだ、涙目になって絶対何か面倒なこと頼んでくるに決まってる」


『冗談に聞こえないのでやめてください』



審神者になって早数年。私の刀剣たちの中でも、真黒さんと顔を合わせる機会が一番多いのは薬研だ。
薬研の洞察力が優秀過ぎるのか、はたまた分かりやす過ぎる真黒さんがいけないのか。義妹の私が否定できないくらいには薬研の推測は的を得ている気がする。



薬「ま、何か変なこと頼んでくるようなら俺が睨んでやるから安心してくれや大将」


『……はい』



安心して良いのだろうか?
ニカッと頼もしい笑顔を浮かべる彼に、私は頷くことしかできなかった。





真黒さんの執務室に到着すると、廊下には石切丸さん、燭台切さん、鯰尾さんという見慣れた刀剣たちがいた。
この三人がいるということは私と同じ特別部隊のメンバー、瑠璃様、瑪瑙さん、翡翠さんも呼ばれているということだ。

私たちに気付いた鯰尾さんがにっこり笑って駆け寄ってくる。



鯰「クロさんも呼ばれてたんですね! こんにちは!」


『こんにちは。もしかして近侍は廊下で待機ですか?』


鯰「そうなんですよ〜。中にいるのは真黒さんだけじゃないですからね」


薬「旦那だけじゃない?」


石「重春さんがいるんだ」


燭「あの人は刀剣と関わるのを極端に避けるからね」


『……成る程』



顔を見合わせて苦笑する石切丸さんと燭台切さん。二人の様子から察するに重春様から睨まれでもしたのだろう。

重春様は真黒さんと瑠璃様の父親だ。政府の人間だから執務室にいてもおかしくはないけれど、真黒さんからの呼び出しだったのに重春様もいるとは……。
用件があるのは重春様の方なのか?



薬「てことは、俺もここで待機か」


『ですね、仕方ありません』


薬「何かあればすぐ呼べよ、大将」


『ありがとうございます。行ってきます』



ここまでついてきてくれたのに少し申し訳なく思いながらも薬研には廊下に残ってもらい、私は執務室の扉をノックして中に入った。



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