聞いていた通り、執務室には真黒さんと重春様がおり、他三人の特別部隊メンバーが揃っていた。



『こんにちは。お待たせして申し訳ありません』


瑪「こんにちは、クロちゃん。まだ時間前だから大丈夫だよ。俺と瑠璃、今日は演練だったから先に着いてただけだしね。翡翠も現世で買い物してたらしいし」



瑪瑙さんにおいでおいでと手招きされ、隣のソファーに腰を落ち着けた。

私、瑪瑙さん、翡翠さん、瑠璃様の順に座ると真黒さんがお茶を用意してくれる。ゆらゆらと揺れる湯気が濃い目のお茶から立ち上り、ゆったりとしたお茶会のような雰囲気を醸し出している。
が、残念ながら役人である彼らを前にしてはそんな甘い会では無い。

真黒さんもソファーに腰掛けたところで重春様は時計を確認し、バインダーを片手に話を切り出した。



重「少し早いが話を始めようか、真黒」


真「うん。皆、突然呼び出して悪かったね」


瑠「何を今更。時の政府からの突然じゃない呼び出しなんて、会議の召集くらいでしょ、おにぃ」


真「はは……。ごめんごめん」


翡「で、本題は? あんたら二人が揃ってんだから、また面倒なこと押し付けてくんだろ」



早く帰らせろと言わんばかりに先を促す翡翠さん。
薬研と意見が全く同じですね。やっぱり面倒事なのでしょうか?

彼に睨まれた真黒さんは冷や汗をかきながら一つ咳払いをし、今回の召集理由を口にする。



真「単刀直入に言うよ。君たちの本丸で見習い審神者の研修をしてほしい」


瑠「やだ!」
翡「断る」
瑪「嫌ッス」
『お断りします』


真「うん、わかってたけど全員即答しないで!!」



わかってたなら最初から言わないでください。しくしくと涙を拭う動作をしても嘘泣きだとバレバレです。

そんな彼を横目に瑪瑙さんは足を組み、肘掛けに寄りかかりながら重春様に訊ねる。



瑪「なんで選りに選って俺たちなんスか? 普通の日課もこなしながら特別任務もやってヘトヘトなのに、更に見習い審神者研修とか……。俺たちを寝かせないつもりッスか、勘弁してください」


翡「俺ら以外にも妥当な審神者はいんだろうが。人柄の良いベテランだっている筈だ」


瑠「あたしが人に教えるとか無理よ! お父様とおにぃが一番良く知ってるでしょ! あたしお母様似なんだから!」



瑠璃様……。それ遠回しに実の母親を貶してますよ。
……否定はできませんけど。



重「確かにお前は麗華に似て雑だからな。無理は承知の上だ」



重春様まで自分の奥様のこと貶さないでください。



真「うぅ……。クロも同意見?」


『……私は既に政府の管理下から外れています。管轄外の本丸に研修生なんて、何か起こっても保証なんてありませんよ。政府もその辺りの責任はとらないのでしょう?』



三人とは違い、私は個人の審神者だ。養成所のOBではあるけれど、政府からの守りは無いため全て自己責任となる。
私と政府は"歴史を守る"という同じ目的の元で動いているだけであり、お互いの干渉は控えている……、言うなれば同志といった間柄だ。

そんな私の本丸に養成所の生徒を預けるというのは、あまりにも無責任というものだろう。



瑪「俺もクロちゃんの意見に同意ッスね。クロちゃんのこと信頼できるから預けられるとか言うんでしょうけど、政府管轄でない本丸に研修行かせる意味がわからない」



だったらちゃんと政府の管理下に置かれた審神者の元に送る方が賢明な判断だと言う瑪瑙さん。瑠璃様と翡翠さんもそれに関して意見しないあたり同意ということなのだろう。


 

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