一日目の夜。
躑「うっっま!!!! めちゃくちゃ美味いです!! さすが付喪神様とクロさんの手作り料理!!」
夕飯の席につき、焼き鮭を一口食べた躑躅くんの感想がこれだ。
ふっくらした身を丁寧にほぐし、口に運んでじっくりと噛み締めては、白米を頬いっぱいにかき込む。
心から美味しいと思ってくれていることは、彼のこの様子を見れば疑いの余地もない。
燭「躑躅くん。焦って食べなくても、おかわりならたくさんあるよ」
躑「んぐっ、いいえ燭台切さん! 今日は俺まだ何っっっにもしてないんですから、この一杯だけで十分です! 働かざる者食うべからずです!!」
岩「がっはははは! その心意気は結構だが、そんなにガッついていては、皆の飯が半分もいかぬ内に食べ終えてしまうぞ」
三「うむ。腹が減っては戦もできぬとも言うだろう」
今「三日月さまのいうとおりですよ、躑躅。そんなにおなかがへっているのなら、たくさんたべてください。じゃないと、あしたからたいへんですよ」
光忠に続いて岩融たちにも食え食えと進められる。
躑躅くんは彼らとお膳を交互に見ると、ちらっと私に視線を寄越した。
『おかわりに私の許可なんていりませんよ。ご自由に食べてください。今剣が言うように、明日からが研修本番なのですから』
躑「……じゃあ、お言葉に甘えます! ありがとうございます! 燭台切さんおかわりお願いします!!」
燭「ふふ。はい、ちょっと待ってね」
頬にご飯粒をつけた躑躅くんに茶碗を差し出され、光忠は嬉しそうにご飯のおかわりをよそった。
受け取った躑躅くんはお礼を言うとまた凄い勢いで食べていく。
こんなに幸せそうにご飯を食べる人は初めて見るかもしれない。
純粋な反応を示す躑躅くんに対する皆さんの警戒は、今日一日だけでもだいぶ薄れたようだ。
躑「それにしても、付喪神様のご飯ってこんなに美味しいんですね。ビックリです」
『光忠のは特に美味しいのですよ。私も最初は驚きました』
燭「主も躑躅くんも大袈裟だよ」
鶴「照れるなよ、光坊。うちの自慢の料理長だもんな、主!」
『はい。我が家の大事なお母さんです』
燭「鶴さんっ! 主っ!」
真っ赤になって照れる光忠を、鶴丸が肘で小突く。
彼らの様子を見ていた躑躅くんもまた、楽しそうに笑っていた。
躑「良いなぁ、刀剣男士。どこの刀剣たちもみんな料理上手なんですか?」
『その本丸の主によりますね。うちは交代制で当番をやっていますから、誰でも料理はできますけど……。当番を決めていない本丸では、料理する者は固定でしょう』
躑「へぇ〜。その辺は自由なんですね。他の三人はどうしてるかな……。美味しいもの食べてんのかな」
薬「躑躅以外の研修生たちか?」
薬研の問いに躑躅くんはこくりと頷くと、僅かに視線を落とした。
躑「……実は、研修生の内の一人は俺の姉なんです」
『ご姉弟で審神者に?』
躑「そうなんですよ。俺も姉ちゃんも霊力あるからって政府からスカウトされたんです。姉ちゃんがどんどん突っ走って行くから、俺もついてくのが大変で大変で!」
薬(躑躅より突っ走る姉ちゃんってのもだいぶ強烈だな)
(ですね……)
躑躅くんだけでも素直でテンションが高い印象だというのに、それ以上となると教える立場になるのは大変だろう。
シロも同じことを思ったらしい。
シ『躑躅くんのお姉ちゃんは、誰の本丸で研修してるの?』
躑「確か、真黒さんの妹さんのとこって聞きましたよ」
『え……』
シ『うわぁ……』
薬「瑠璃か……」
あの子のとこに躑躅くんのお姉さんが……。
躑躅くんから聞いた限りでは、瑠璃と同類の猪突猛進タイプのように思える。
真黒さん、本当に瑠璃のとこに躑躅くんのお姉さん送って大丈夫なんですか?
(飛び火が来ませんように……)
期間は一ヶ月もあるのだ。今から他の本丸を心配していても仕方がない。
まずは躑躅くんを育てることに集中しようと、今聞いた話は頭の片隅に置いておいた。