挨拶を終えた躑躅くんを、薬研と共に本丸の中を案内して回る。
キョロキョロと落ち着きの無い様子だけれど、毎日誰かしらお世話係をつければ慣れてくれるだろう。
躑「えっと……厨があっちで、厠と風呂場がこっちで、向こうが畑と鍛練場になってて……」
薬「躑躅、今すぐ全部を覚える必要はないぞ」
躑「いやいや! お世話になるんですから最低限のことは一気に覚えます!!」
薬「ははっ、良い心掛けだ。もし何かあればいつでも言ってくれ」
躑「はい! ありがとです!!」
元気の良い子だ。
ずっとこのテンションで大丈夫だろうか?
最後まで乗りきれたら何かご褒美でもあげよう。
雑談しているうちに厩に着いた。
今日の馬当番は鯰尾と骨喰だ。
鯰「おっ!? 見学ですか?」
『はい。少々失礼しますね』
骨「ああ」
二人に断りを入れてから、躑躅くんを厩の中に通す。
『ここが厩です。うちでは毎日交代制で馬のお世話をしています』
躑「わぁ〜、毛並みの良い馬! 触っても大丈夫ですか!?」
『どうぞ。優しく撫でてあげてくださいね』
動物は好きなのか、躑躅くんは一頭の馬へと両手を伸ばす。
すると……
躑「わぶっ!?」
躑躅くんを気に入ったのか、その馬は彼の顔面を舐め回した。
どこか既視感を覚える光景に、隣に佇む薬研に視線を移す。
彼も同じことを思っていたのか、躑躅くんに同情の眼差しを送っていた。
『……薬研と同じですね』
薬「やめてくれ。舐められるのって大変なんだぞ」
『ふふ、ごめんなさい』
鯰「あはは! でも薬研と違って躑躅は嫌がってないみたいだね」
骨「確かに……」
鯰尾の言うように、躑躅くんは舐められても尚、馬に手を伸ばして毛並みを堪能している。
躑「うぶぶ……っ、わ…っ! てざ…………さ……こぅ……ぶはっ」
薬「……なんて?」
骨「手触り最高と言ってるんじゃないか?」
『そんな感じがしますね。満面の笑顔です』
鯰「負けてられないねぇ、薬研?」
薬「む……」
鯰尾に肘で小突かれて、薬研は眉間に皺を寄せる。
不服そうなその顔には対抗心があるように窺えた。
しかし、さすがに馬に舐められるのは勘弁だとも言っているように見え、彼にしては珍しいその表情に私は密かに笑みを溢した。