私は今、審神者としての第一歩を踏み出そうとしている。
……ボロボロの屋敷の前で。
ことの始まりは私に届いた一通の手紙から。
珍しく義父の重春(しげはる)様に呼ばれ、書斎に入ったら義母の麗華(れいか)様も揃って鋭い視線を私に寄越した。そんなのもう慣れっこの私は用件を促すために重春様の目を見つめる。
すると、真っ白な封筒を一つ差し出され「読め」と一言。言われるがままに封筒を開き、一枚だけ入っていた手紙を取り出した。
見習い番号:320096
歴史改変を阻止すべく、
審神者の任につくことを命ずる。
時の政府
それだけの文に目を通し、再び重春様を見れば険しい顔でコクリと一つ頷いた。つまりは「行け」ということだ。
私に拒否権は無い。時の政府からの命が届いた以上、私の歩むべき道は決まったも同然。
了承の意味も込めて一礼し、部屋に戻るべく踵を返して扉に手をかける。
重「失敗は許さん」
開ける前に私の背に掛けられた重春様の低い声。圧力でもかけようというのか、その重々しい声音は昔の私なら呼吸の仕方さえ忘れてしまいそうな程のもの。
重「時の政府からの命がどれ程重要で名誉あるものか、十分に理解しろ。我が娘、瑠璃(るり)のように」
『…はい』
麗「瑠璃はこの鈴城(すずしろ)家でも特に優秀な功績を残しているわ」
『…………』
麗「貴女にどこまで出来るものか、見物ね」
『…全力を尽くします』
顔を合わせずとも成される…、上司と部下ともとれる冷めきった会話が私の当たり前で、それ以上のことは許されない。
今度こそ静かに扉を開け、重春様の書斎を後にした。