夕陽が暗闇に飲まれていく時間帯。
本丸を長谷部たちに任せ、「行ってらっしゃい」と見送る皆さんに「行ってきます」と答えた私は薬研、乱、小夜、今剣を連れて鳥居を潜った。

一先ず向かう先は政府だ。そこで瑪瑙さんと待ち合わせることになっている。



真「あ、来たね」


瑪「こんばんは、クロちゃん」


『こんばんは。お待たせしてすみません』


瑪「全然!俺は先輩と話してただけだし、まだ十分前なんだから大丈夫だよ」



それなら良かった。

立ち話をしていたらしい真黒さんと瑪瑙さんの後ろには、瑪瑙さんの刀剣たちが四人。見覚えのある姿から、うちの本丸にはいない方もいる。

四人とも脇差で、にっかり青江さん、堀川国広さん、浦島虎徹さん、骨喰藤四郎さんだ。近侍は青江さんが務め、骨喰さんは瑪瑙さんの刀として扱われるらしい。

そして、実は瑪瑙さんもこの任務に当たるのは初めてなのだそうだ。現在他の任務には翡翠さんと瑠璃様が行っているため、瑪瑙さんはチームが組めずに手持ち無沙汰だったようで…。つまりはもう一人の審神者が決まるのを待っていた。

お互いに初めての特別任務。前もった情報交換は怠らない。



瑪「さて。先に話してはいたし見てわかる通り、俺は脇差部隊でクロちゃんが短刀部隊。お互いの戦績と刀剣の練度、俺とクロちゃんの養成所での成績を見て先輩と話した結果、そうした方が動きやすいと判断した」



瑪瑙さんの所には索敵上手な青江さんの他脇差の練度が著しく高く、逆にこちらは短刀たちが高かった。

刀剣たちは普段六人編成の部隊で出陣しているため、今回の任務でも刀剣は合わせて六人に加え、私たち審神者用の刀に一振ずつ。場合によっては骨喰さんと今剣にも戦ってもらうことになるだろう。



瑪「審神者としては俺の方が先輩だけど、任務には先輩も後輩も関係ない。それに霊力値はクロちゃんの方が断トツで高いし、気配察知も優れていると先輩から聞いた。何か気づいたことがあればすぐに言ってね」


『わかりました。よろしくお願いします』


瑪「うん。じゃ、そろそろ行こうか」


『はい』


真「…クロ」


『?』



瑪瑙さんが黒本丸に設定していると真黒さんに呼び止められた。短刀の皆さんと一緒に振り返ると、じっと私を見つめる瞳と視線がかち合う。

あの日、過去を語れと言われた時と同じ、私を案じてくれている瞳だ。

″気を付けて″

″怪我をしないで″

そう聞こえてきそうな瞳の色。でも、出てきた言葉は違った。



真「…行ってらっしゃい」



真黒さんは微笑してたった一言、静かにそれを告げた。

何年政府に勤めてきたのかはわからないけれど、彼も黒本丸に向かうことがどういうことなのかは当然よく理解している。私は薬研たちの本丸を無事に修復して更正も出来たけれど、失敗に終わった審神者の方が沢山いるし、ただの怪我で済まなかった人だっていたと聞いている。

だからこそ、言いたい言葉を彼は呑み込んだ。
怪我せずに帰還するなど、余程力のある審神者か、或いは失敗して逃げ帰りでもしなければ無理なのだから。



瑪「クロちゃん」


『今行きます。…真黒さん』


真「…………」


『私、″負けません″よ』


真「!クロ…」


『…行ってきます』



″行ってきます″があるから、″ただいま″がある。

必ず帰る。
だって、本丸でもここでも″行ってらっしゃい″って送り出してもらったのだから。


負けない。絶対に。


心の中で決意を固めて薬研たちに目配せをし、私も瑪瑙さんの後に続いて鳥居に飛び込んだ。










真「帰ってくるんだよ…クロ…」


 

ALICE+