薬「…行こうぜ、大将」


『もう良いのですか?』


薬「ああ。いつまでもこんなとこで悲しんでたって、このいち兄が報われるわけでもねぇ。さっさと仕事終わらせて、江雪の旦那に読経してもらいてぇしな。小夜からも頼んでくれよ?」


小夜「うん…。兄様なら言わなくてもやりそうだけど…」


乱「あははっ、確かにね!」


薬「んじゃ、続きに行くとしようぜ」



小夜の頭を撫でながらニッと笑う薬研に、乱も自然と笑みが溢れた。流石は粟田口兄弟の兄貴分。沈んだ士気を一気に高めてしまった。

…私には見えた。薬研の藤色の奥深くに、悲しみの色が宿っているのを。それを追いやってまで進もうとする彼の心はとても強かった。



今《あるじさま、おいていかれちゃいますよ?》


『そうですね。では私たちも……?』


今《あるじさま?》



ふと足元にあった四角い何かが目に映って歩みを止めた。



薬「大将?」


乱「どうしたの?」



それを拾い上げると、待たせてしまった薬研たちが戻ってくる。拾ったそれは写真だった。この審神者が撮ったのだろう、写っていたのは…



『!″彼″は…』


薬「ん?ああ、厚だな」


乱「あ、ほんとだ。いち兄と厚だ」


『え…』



あつし…?

厚…藤四郎?

″彼″が?



その時、今まで静寂を保っていた空気がビリビリと揺れた。人間でも刀剣でもない…感じたことの無い気配にそれぞれが刀を抜いて構える。

けれど、私は一度感じた。



『…、これは…』



あの記憶の中で、一番最後に現れた″彼″の気配だ。



バキバキバキィッッ



隣室の襖が破かれ、現れたその姿も私が視たものと同じ。真っ白な骨に包まれ、漆黒の闇を背負ったその姿。ギラギラと獲物を見詰める紅く輝く瞳。

そして、その面影は…





薬「な…っ!!?」


乱「あつ…し…?」










写真の中、一期一振と共にニカッと笑う
″厚藤四郎″だった。


 

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