青「…ま、とりあえず僕らは情報交換して、これからどうするか作戦を立てよう」



一先ず落ち着いて整理してみようと青江の旦那が仕切った。外にも敵が来ないか気を張りながら、六人とも一旦冷静になって話を聞く。


青江の旦那によると、五階は瑪瑙からの連絡通り未使用のままに埃で汚れた部屋があるだけ。四階は刀剣たちが使用していたらしく生活した跡があったようだ。

しかしそこも荒れ放題で、俺たちが見てきたあの爪痕が多く残っていたらしい。



青「不気味なくらい何の気配も無かったんだけどねぇ。四階の調査が終わってクロさんに連絡しようというところで、どこから湧いたんだか時間遡行軍が出てきて主とはぐれたんだ」


堀「その場にいた敵は倒したから、あとは主さんの方に向かった敵だけ。だと良いけど…」


浦「あれだけとは思えないよねぇ…」



確かに。瑪瑙たちの前にどれだけの敵が出たんだか知らねぇが、こっちにも時間遡行軍は現れたんだ。大太刀一人だけだったが単騎で行動するほど敵だって馬鹿じゃないだろう。恐らくはもっと…。


続いて俺たちも報告するが、結果は同じ。しかしこちらは審神者の部屋を発見し、更にはその亡骸と堕ちているが厚とも接触している。



青「時間遡行軍がいて…、堕ちているけど刀剣男士もいる…か。或いは堕ちているから時間遡行軍が厚くんを見逃しているのかもしれないねぇ。良いんだか悪いんだか」


乱「最後に折られた刀剣、いち兄だった。主さんの話だと目の前でいち兄が折られた後に堕ちたって言ってたし…、無理もないよね…」


薬「だからって厚が堕ちて良い理由にはならねぇよ。ここのいち兄だってそんなこと望んじゃいなかった筈だ」


乱「うん…」



だが、俺っちだってそんな場面に遭遇したら正気でいられるかなんてわからねぇ。いち兄はいつも俺たちを想って行動してくれる。前任にも何度も土下座してくれた、俺たちの兄貴。





『…どこの一期一振も同じですね。ずっと…、貴方たち弟を守ろうと、最後の最後まで審神者に頭を下げて…』





大将の言った通りだ。どの本丸にいるいち兄も、俺たちを守ろうと必死に動いてくれて。
そんないち兄の気持ちも虚しく、審神者に折られたとあれば厚の気持ちの方が俺も乱も共感してしまう。

でも駄目だ。だからって堕ちては今まで守ってくれてたいち兄に申し訳が立たねぇだろうが。

今の厚は審神者を一括りに考えている。嘗て俺たちが大将に更正される前の考え方と同じ。

審神者だってそれぞれ違う人間なんだと今の俺たちはわかる。だからこそ、厚に大将を殺させるわけにはいかねぇ。あの人は俺が刃生を掛けると誓った、大事な大将なのだから。



堀「…ちょっと、気になることがあるんだけど」



静かに俺たちの会話を聞いていた堀川が、ふと襖の方に視線をやりながら言った。



浦「なになに?」


堀「さっきからこうして話していて、時間は結構経ってるよね?僕らが最後の敵を倒した後から考えればもっと。なのにどうして…」





″誰も″来ないのかな?





薬「!」



言われてみればそうだ。俺たちと大将が引き離された時もあんなに絶妙な間合いに敵が降ってきたくらいだ。こちらの気配も探られていたっておかしくはないし、いつ奴らと戦闘になっても良いようにと全員ずっと本体に手を添えている状態。

なのに、何故敵が来ない?



堀「それに、ここの審神者が亡くなっていて、厚くんが…堕ちてはいても無事でいること。僕、最初は一期一振を折られた悲しみから、厚くんが堕ちた後に審神者を殺したのかと思ってたけど…」


浦「?そうじゃないの?」


堀「…もしそうなら、そんなにも怒りを覚えて憎む相手の手に、大事なお兄さんを握らせたままでいる?」


乱「!そんなこと…ボクだったらしない。取り上げる」


薬「…あともう一つ。審神者が殺されたのを視たと大将は言ったが、″誰に″殺されたかなんて一言も言っていない」





『姿形が変わっていく刀剣…。彼の奥で審神者は自我を無くしたまま放心状態にありました。その後に視えたのは飛び散る赤…。それだけです』





小夜「…飛び散る赤…は、審神者の血。でも、手を下したのは厚じゃなかった…?」


青「だとしたら、審神者を殺した本当の犯人がどこかにいるってことだね」



時間遡行軍は歴史改変を望む歴史修正主義者が放った刀剣部隊だ。本来ならもっと昔の歴史を攻撃している奴らがこの黒本丸にいる。

審神者の死体。

堕ちた厚の存在。

引き離された大将と瑪瑙。

一向に現れない時間遡行軍。



薬「奴らの狙いは…!」










『私たちのようですね』



凛とした鈴の音のような静かな声が俺たちの耳に届いた。



 

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