思わぬ敵、時間遡行軍によって大将と今剣が下の階へと落とされた。





『頼んだ』





落とされる寸前に俺に向けて告げられた大将の言葉。彼女から近侍を頼まれた時にも別れた時の対処は聞いていたが、あの言葉が無ければ今頃俺も冷静ではいられなかっただろう。

いくら戦場育ちと言えど、″大将″と決めた人間が攻撃されて気が気じゃないのが本音だ。近くで守ると言ったのに、大将が″万が一″と言ったことが本当になるとは…。

こうなっちまったのはもうしょうがねぇ。問題は、これからどうするか…だ。



薬「大丈夫か、乱」


乱「平気だよ、これくらい。小夜は?」


小夜「僕も大丈夫…」


薬「よし。…ったく、どうなってやがる…」



厚を下へと誘導したまでは良かった。だが、外に出ようとすると見えない何かに阻まれ押し返される。何者かによって強い結界が張ってあったのだ。

刀剣の俺たちじゃ結界は破れねぇ。仕方なく外に出ることは断念し、厚から距離をとって今は三階まで上がり手入れ部屋に隠れている状態だ。ここは待ち合わせ場所として決めていたから、この周辺にいれば瑪瑙たちとも顔を合わせられる可能性が高い。

だが、本能剥き出しの厚はそう簡単に撒かせてはくれず、俺たち三人とも軽傷。

破壊命令はまだ出ていない。本能相手に手加減しろだなんて無茶苦茶だが、相手が相手なだけに手加減出来ることにほっとしている自分もいる。それは乱も同じだろう。



乱「これからどうする薬研?主さんと今剣をさがす?」


小夜「主は無事みたいだけど…」



俺たちに宿る大将の霊力はぶれることもなく暖かいままだ。どんな状態にあるのかまではわからねぇが、どこかで無事にいることだけはわかる。



薬「いや。大将はさがされることを望んじゃいねぇだろ。こっちはこっちで進む」


乱「じゃあ…」


薬「瑪瑙たちと合流する」



別れる前、大将は瑪瑙に応援を頼もうとしていたがそれは時間遡行軍によって阻まれた。その後に連絡がとれたのかはわからねぇけど、このままバラバラに行動するよりは大将か瑪瑙どちらかと合流した方が都合が良い。

大将の行方がわからねぇ今、上の階を探索しているだろう瑪瑙たちの方が近いしさがしやすい。



乱「なら、早くさがしに行こう」


青「その必要はないよ」


薬「青江の旦那!」



見計らったのか偶然か、ちょうど良い所に現れたのは瑪瑙の脇差部隊三人。向こうも戦闘があったのか所々に傷を負っている。

そして、こちらと同じように約二名の姿が見えない。



小夜「……三人だけ?」



瑪瑙とその刀である骨喰兄がいねぇ。もしやと思い瑪瑙の近侍である青江の旦那を見上げれば苦笑して肩を竦めた。



青「概ね君たちが考えていることで合ってると思うよ。なんでだか時間遡行軍に出会してね」


浦「俺たちもいるってのに主さんにばっか向かっていってさぁ!お陰で床に穴が空いて主さん下に落っこちちゃったんだ!」


薬「!そっちもか?」


堀「″も″?…ってことはクロさんも?」


乱「うん…。天井から時間遡行軍が降ってきて主さんと今剣も床から落ちちゃって…。大丈夫かなぁ主さん。降ってきたの大太刀だったよね?」


小夜「…………」



おいおい、本当にどうなってやがるんだこの本丸。任務自体は修復と更正だけの筈だろう?なら厚と…もし他にもいるなら刀剣の更正をして、大将たちが本丸を浄化すれば終わる…それだけだったんだ。

本丸の結界内に時間遡行軍がいるなんて聞いたこともねぇぞ。

頭を抱えて考えるが混乱してて何もわからねぇ。


 

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