地鳴りと共に凄い音が響いて砂煙が舞う。
衝撃波はどうなった?というか私、今どういう状態?

身体に大きな力を受けた感覚は無い。ただ、頭の中に響いてきた声に従った覚えはあった。



──呼んで



あの声の主は誰なのか。そんなの、私が紡いだその名の持ち主に決まっている。

目の前で、さっきまで私が握っていた刀を肩に担いで私を見下ろしているその刀剣男士は…



刻「どーもぉ、クロちゃん。怪我はしてなぁい?」


『大丈夫です。助かりました、刻燿』



今までずっと私と戦ってくれていた刻燿だ。

身長は170cmくらいだろうか?本体同様に頭から足まで真っ黒で、袖の長いトップスにダボッとしたズボンを穿いていて着こなしは緩い。
髪は鶴丸くらいでこれまた真っ黒。右のもみあげだけ胸の辺りまで長くて、蒼い玉の飾りで束ねている。
吊り目でニマッと笑ってて、さっきの口調も緩かったし、未だ嘗て出会ったことの無い…この本丸にはいないような性格みたいだ。



薬「大将ッ!!」


『薬研。皆さんも…』



そうだ、今は刻燿を観察してる場合ではなかった。

改めて周りを見ると地面は衝撃波の形で抉れているし、瑠璃は力を使い果たしたのか気絶している。そりゃこれだけ霊力を解放したら倒れますよね。怪我はしてないようですが。



今「あるじさま!おけがはありませんか!?」


『大丈夫です。ご心配をお掛けしました』


五「ぅぅ…主様ぁ…ぐすっ」


『泣かせてすみません、五虎。大丈夫ですよ』


加「主!髪一本たりとも傷ついてないよね!?大丈夫なんだよね!?」


『はい。この通りピンピンしてます』


加「良かったぁ!」


和「…あんたに″ピンピン″って言葉は結び付かねぇような」


『私もそう思います』


和「どっちだよ!!」


鶴「ははっ!冗談言えんなら本当に大丈夫そうだな」



抱き着いてきた今剣や加州たちを宥めながら受け答えしていると、薬研は傍らにいる新顔、刻燿へと目を向けた。



薬「あんた、刻燿だな」


刻「へへ〜、よくわかったねぇ」


薬「顕現してなくてもあんたとは二回一緒に出陣したからな」


刻「あぁ〜そぉいえばそぉだったねぇ」



ふふふ〜と笑いながらユルユル喋る彼はまるで猫のように自分の爪を舐めた。



刻「その通りぃ〜、ボクは刻燿だよぉ。クロちゃんに使ってもらってる内にボクの中に霊力溜まっちゃってさぁ、顕現出来るようになっちゃった」



クロちゃんの霊力おっきぃからねぇと顕現出来て嬉しそうに笑う刻燿。

恐らく手合せの最中に霊力が溜まりすぎてしまったのだろう。だから行き場を無くした霊力が熱となって溢れてしまい、刻燿は一刻も早く顕現して力を解放させたかったのだ。

あと一歩遅ければ大破。そう考えると恐ろしい。



『気付いてあげられなくてすみません』


刻「ううん〜大丈夫だよぉ。あっちの審神者さんの霊力のせいでボクの声も届きにくかったみたいだしぃ、最終的にはちゃぁんと名前呼んでくれたんだから、けっかおーらいってねぇ〜」



ヘラヘラ笑っているけど本当に良かったと安堵する。

刻燿の言うように、手合せ中は瑠璃もかなり多くの霊力を溢れさせて打ち込んできた為、刻燿の声にノイズが重なったような状態で聞き取りづらかったのだ。
瑠璃は一度夢中になると見境無いですからね。

彼の声に集中しようとした矢先にキレるし…。間に合って良かったですけど、お仕置きは必要ですよね。

瑠璃の方に向かうと彼女は気を失ったまま石切丸さんに抱き抱えられていた。



石「本当に、お転婆な主で申し訳無い。こんなに地面に傷跡まで残して…」


『お気になさらず』


石「主はもう暫く起きないだろうし、すまないがこのままお暇させてもらうとするよ。ここで起きたらまた騒ぐだろうからね」


『そうですね。その方が良いと思います』



お互いに…と言うと石切丸さんは苦笑して頷いた。
彼も瑠璃のことはよくわかっているらしい。流石は近侍を勤めているだけはある。



石「じゃ、私たちは帰るよ」


『はい。あ、瑠璃に伝えておいてください。″一ヶ月はクロの本丸出入り禁止″と』


石「聞いてくれるかわからないよ?」


『″うっかりでも迷子でも一歩踏み入れたら姉妹の逆鱗に触れる″と脅せば大人しくなります』


石「″姉妹″…ああ、シロさんのことだね」


『シロの怒りの方が収まりが悪いですから』


石「ふふ、わかったよ。それでは」



私と皆さんに一礼して背を向けた石切丸さんは、鳥居を潜って姿を消した。


 

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