『……大丈夫でしょうか?』
大和「大丈夫だって。……たぶん」
薬「ま、心配したって仕方ねぇさ。欠席するわけにゃいかねぇだろ?」
そうなんですけど…ねぇ?
現在、大和守と薬研を連れ審神者会議が行われる第一会議室へと向かっているのだが、どうしても本丸が気になってしまう。
加「主!」
小狐「ぬしさま!」
準備万端。さて鳥居を潜ろうかというところで掛けられた声に振り向けば…あらま。泣きそうな顔した加州と小狐丸が薬研と大和守を押し退けて抱きついてきた。
…あ、大和守のこめかみに怒りマークが…。
加「主!ちゃんと戻ってくるんだよね!?帰ってくるんだよね!?」
『加州、大丈夫ですよ。夕方には戻ります』
小狐「ぬしさま!この小狐丸…いつまでもぬしさまのお帰りをお待ちしておりますっ!!」
『はい。小狐丸も留守を頼みますね』
加「主ぃぃぃ!!」
小狐「ぬしさまぁぁぁ!!」
大和「…はぁ。今生の別れじゃないんだから…」
薬「はは。まぁ良いんじゃねぇか」
というやり取りをしたのが一時間前のこと。まさか外出であんなに泣きつかれるとは思いませんでした。私が就任して初めての外出だから仕方ないのかもしれませんが、このお見送り些か盛大すぎやしませんか?
寂しいと思ってくれるのは嬉しいし置いていくことに申し訳なさも感じたけれど…、すみません。ジャンケンで真っ先に敗退した結果ですから我慢してください。
夕方までの辛抱だからと捨てられた仔犬のような顔をする二人を撫で、刻燿や長谷部たちに本丸を任せ、後ろ髪引かれながらも出発した。
刻燿には「お土産忘れないでねぇ〜」と手を振られ、長谷部は「主命とあらば!」と逆に生き生きしていました。加州たちと対照的すぎです。
鳥居を潜る時の背中に刺さる色んな視線が痛かったです、とても。
薬「月に一度はある会議なんだろ?来月も再来月もあるってあいつらもわかってんだ。徐々に慣れてくれるさ」
『そうですね…』
大和「そうそう。そうじゃなきゃ主が疲れちゃうよ。留守番したくないなら来月のジャンケンで勝てば良いんだからさ」
あ、来月もジャンケンするのは決定なんですね。たぶんシロからもまた二人連れてこいと言われるのだろう。
今日の面会であの子は刀剣男士にどんな印象を受けるのやら…。薬研と大和守なら大丈夫でしょうけどね。
なんやかんや話しながら歩いていると会議室に到着。出席者チェックをしている黒スーツの人と直接会うのも久しぶりだ。
真「あ、来たねクロ」
『こんにちは』
真「こんにちは。今日こそは″お兄ちゃん″呼びを」
『しません』
真「うぅ…しくしく…。わかってたけど即答は悲しいよ…」
「「…………」」
えーんえーんと嘘泣きする男。真黒さんと私のやり取りを見て、薬研と大和守はぽっかりと口を開けて呆けていた。そりゃ初対面の反応はそうなるだろう。
真黒さんのルックスは悪くないし(寧ろキリッとしてて超イケメン)、審神者養成所にはファンクラブまであったほどだ。そんな人が七つも歳の離れた小娘に言い負かされて嘘泣き…。呆れるのが普通ですよね。
『紹介しますね。この真っ黒い人は、見た目の通りその偽名も″真黒″。瑠璃様の実兄で私の義兄です。時の政府の一応恐らくたぶん偉い人らしいです』
大和「!主の…」
薬「義兄…(この人が…)」
真「クロ!そこ″一応″も″恐らく″も″たぶん″も″らしい″も付けなくて良いから!!」
『詳しく教えてくれないのは真黒さんでしょう?どれくらい偉いのか私は知りませんし、神様の前で人間の格差なんか見せびらかしても何の得にもなりませんよ?』
真「あぁ…クロのこのクールな感じ…。久しぶりで涙が…」
と目元を拭う仕草をする真黒さんだったけれど、特に二人からの面白い反応が見られなかったからか一つ咳払いをしてニコリと笑った。営業スマイルというやつですね。胡散臭いです。
真「初めまして、薬研藤四郎くんに大和守安定くん。
クロに紹介された通り、私は″真黒″。クロの義兄です。瑠璃とも会ったことあるんだっけ?」
薬「ああ。盛大に厩に風穴開けられたよな」
大和「うん。主と手合せして地面に溝まで掘ったし」
真「あははー、大変だったみたいだね。その後かなぁ瑠璃から連絡あったんだよ。「クロに一ヶ月出禁って言われたぁ!!」って」
『当たり前でしょう』
真「ま、やっちゃったことは後悔してるみたいだからさ、大目に見てやってよ」
『反省は?』
真「してないだろうね」
「「『…………』」」
真「やめて!!三人揃ってそんな目で私を見ても何にもならないから!!」
いや、実兄なんだから何とかしてくださいよあの子の性格。反省してくれなきゃお仕置きの意味ないじゃないですか。
薬「そういや今日は来ねぇのか?あんたの妹さん」
真「ああ、瑠璃は明日の会議に参加してもらうことになってるんだ」
大和「明日?今日じゃないの?」
真「うん。会議は二日間に分けてやるんだ。審神者とその刀剣男士を集めるわけだからね、流石に会議室の余裕も無いし」
二人がほっと安堵した表情になったのは気のせいじゃないだろう。瑠璃様には悪いけれど散々な目に合いましたからね。気持ちはよくわかります。
雑談をしてるうちにだんだんと参加者が集まってきたため、真黒さんと別れた私たちも会議室へと入り適当な場所に座って始まるのを待った。