『お見苦しいところをお見せして申し訳ありません』


「「「「「!!!」」」」」



深く深く頭を下げて謝罪すると、はっと我に返ったらしい空気が伝わってきた。
悪いことをした。ついてきてくれた薬研と大和守にも、初対面の瑪瑙さんと鶴丸さんにも。実の息子である真黒さんにも。

最初は聞き流していただけだったけれど、シロのことを侮辱されたのだけは黙っていられなかった。



大和「主!頭を上げて!」


薬「そうだぜ大将!あんたが謝る必要なんてどこにもねぇだろ!?頭を上げてくれ!!」


真「クロ、頭を上げて」



焦る二人と真黒さんの声に頭を上げると、今度は真黒さんが私の前まで来て頭を下げた。



真「謝るのは私の方だよ。母のあの言動、暴言、本当に申し訳ない」


『真黒さんが謝るのは違うでしょう?止めようとしてくださいましたし。私は貴方の前だというのに抑えられませんでした』


真「それはして当然のことでしょ。妹を侮辱されたらそうするのは当たり前。私だって瑠璃のことをあんな風に言われたら腹が立つし、さっきのも…ね。…シロが無事で本当に良かった」



すやすやと安定した呼吸をするシロを見て、真黒さんは安心したように微笑んだ。

シロは真黒さんを認めていないけど、真黒さんはちゃんと私たちを"いもうと"として見てくれている。だからこそ、私たちを養子にしても"むすめ"として見ようともしない重春様と麗華様を前にするのは複雑だったことだろう。母親があんな暴言吐く様子だってショックだった筈だ。
……させてしまったのは私だから余計に申し訳ない。



『瑪瑙さんたちも、いきなりこんな子供みたいな喧嘩見せてしまいすみません』


瑪「いやいや、どこが子供みたいな喧嘩?先輩の親父さんとお袋さんに立ち向かうなんて、クロちゃん凄いじゃん。不謹慎だけど怒ったクロちゃんめっちゃ格好良かったよ。なぁ、鶴丸?」


鶴「ああ!良い驚きを見せてもらったぜ!君のこと本丸に持って帰りたいくらいだだだだだっ!!!?」


薬「鶴丸の旦那?(柄まで通してやるから首貸せや)」


鶴「やげっ!(ちょぉ…待っ!首絞ま…っもげる!!)」


『薬研?』


薬「悪い大将、ちょ〜っと旦那と話してくるな」


『??はあ…。いってらっしゃい?』


鶴「あっ、主!」


瑪「いってら〜」



なんだかよくわからないけど、鶴丸さんと仲良くなったらしい薬研は彼を連れて満面の笑顔で出ていった。
何を話すのかは知りませんが、すぐに戻ってくることでしょう。薬研ですし。



瑪「…シロちゃん、大丈夫なの?」



鶴丸さんにヒラヒラと手を振っていた瑪瑙さんは真剣な表情に切り替わり、シロに視線をやりながら静かに訪ねてきた。目の前でいきなりあんな発作を起こさせたのだから、さぞ驚いたことだろう。



『大丈夫です。いつもは発作なんて起きないので』


瑪「発作起きないって…それは何で?」


『シロが発作を起こすのは過度に興奮した時…、過呼吸から発展して呼吸困難に陥った時だけです』



呼吸気管の異状。その為にシロは酸素を多く取り込みすぎて過呼吸を起こしやすいのだ。だから運動は絶対にさせてはいけないし、さっきみたいに怒らせればマシンガンの如く言葉を吐き出すから必然的に呼吸も乱れる。

楽しく会話してる程度ならそんなことにはならないから、安静にしていれば自宅養生でも大丈夫ではあるのだけど…。



『…………』



連れて帰ってあげられない、力不足の自分が悔しい。



瑪「そっか。シロちゃんが良ければなんだけど、俺もまたお見舞いに来ても良いかい?近侍はいつも変えてるから鶴丸とは限らないけど」


『寧ろ有り難いです。シロも喜ぶと思います。でも、鶴丸さんの驚き提供だけは止めさせてくださいね?』


瑪「それは勿論。やろうものなら俺がシバく」



シバくって…。笑ってるのに目が笑っていませんよ?何をする気ですか瑪瑙さん?



瑪「じゃ、俺たちはそろそろお暇するよ。今日はクロちゃんとの顔合わせと、ペアになったからっていう挨拶に来ただけだからさ。鏡番号は先輩から聞いたから、何かあったら連絡するね」


『はい。これからよろしくお願いします』


瑪「こちらこそ、よろしく。先輩、妹ちゃんたち守ってあげなきゃダメッスよ?」


真「わかってるよ。瑪瑙こそ、クロと仕事する時は頼んだよ?」


瑪「言われなくても。それじゃ、またねクロちゃん。
…シロちゃん、お大事に」



柔らかい笑顔を浮かべてシロの頭をそっと撫で、廊下で話し合っていたらしい鶴丸さんをズリズリと引き摺って瑪瑙さんは帰っていった。

重春様と麗華様という邪魔者が入ったせいで少ししか言葉を交わせなかったけれど、彼の印象は良かった。鶴丸さんも信頼しているようだったし、何より彼の霊力からは清らかな暖かさを感じた。真黒さんが紹介したのだから優秀な人なのだろう。


 

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